子供の得べかりし利益の算定に納得がいかない

子供が、交通事故で死亡しました。一一歳の男児です。加害者との交渉で、子供の将来の得べかりし利益をいくらとみるかで示談が難行しています。加害者側は、保険会社が「一八歳未満の未成年老については一八歳に途したとき就職するものとみなして計算する」とのことで、その計算に従った金額迄は出すが、それ以上は出せないといっています。ずいぶん不都合な計算方法だと思いますが、これに反論することはできないでしょうか。

 子供については、現在は収益がなく、将来もどのような職業に就くかは明らかではないのですから、ではどのような計算方法を採ったらよいのかとなると困難な問題です。
 判例の中にも、厳格に考えると幼児の場合には、失った得べかりし利益は計算不可能なのだから、これの請求は認めない、と判断したものもありました。

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近年になって、最高裁判所が、「事故により死亡した幼児の得べかりし利益喪失による損害額の算定かきわめて困難であることは認めなければならないが、算定困難の故をもって、たやすくその賠償請求を否定し去ることは妥当なことではない」と判断したうえで、「したがって、年少者死亡の場合における消極的損害(失った得べかりし利益)の賠償請求については、一般の場合に比し不正確さが伴うにしても、裁判所は被害者側が提出するあらゆる証拠資料に基づき、経験側とその良識を十分に活用し て、できうるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努め、ことに蓋熱性に疑いがもたれたときは 被害表側にとっても控え目な算定万法、たとえば、収入額につき疑いがあるときはその額を少なめに、支出額に疑いがあるときはその額を多めに計算し、また遠い将来の収支の額に懸念があるときは算出の基礎たる期間を短縮する等の方法を採用することにすれば、慰謝料制度に依存する場合に比較してより、客観性のある額を算出することができ、被害者側の救済に資する反面、不法行為者に過当な責任を負わせることともならず、損失の公平な分担を究極の目的とする損害賠償制度の理念にも副うのではないかと考えられる」との判決をだしています。
 そこで、本問の場合ですが、収入額の算定については、各保険会社によって必ずしも同じではありませんが、一般の肉体労働者の得べき最低賃金を目途として、これ に稼働可能年数を乗じた額として計算されているようです。
 これに対し、判例は種々です。
 諸種の統計表による全産業労働者の平均賃金を基礎とするもの、稼働可能年数を二〇歳から六〇歳迄の四〇年間とし、収入は男子労働者の全国平均月額賃金を基礎として、二〇歳より五年ないし一〇年きざみに各段階の賃金額を定め、これを集計する方法を採っているもの、二〇歳から二四歳迄の平均年収額に年間臨時給与を加算した額を基礎として、二四歳から五九歳に至るまでの三五年間の総収入を算出したもの等があります。
 保険の場合には、各保険会社の算定法に従って行なわれますから、判例にいろいろ出ている計算方法を主張しても、保険会社が被害者のいう計算方法を採用することはむずかしいでしょう。
 しかし、「あらゆる証拠」を提出して主張すれば、慰謝料の算定でこれを考慮してもらうことは可能でしょうし、事実、そういう例はいくつもあります。
 また、どうしても保険会社の算定方法に納得がいかないというのであれば、訴訟するしかないと思います。
 前述の通り、この算定方法については裁判所でも必ずしも一定の方法が採られているわけでもありませんので、保険会社とは別の算定方法を裁判所が採用することは十分にあります。
 つぎに、支出額の算定方法については、勤労者世帯の一ヵ月の平均消費支出費を出し、これに稼働年数を乗じたものを生活費てして収入額より控除するのが普通ですが、収入総額に対する一定の割合ととって生活費とみる判例もあります。
 また稼働可能年数についても、始期については判例はまちまちです。中学卒業後、成年到達、大学卒業後などといろいろあります。
 つぎに終期については、最近までば五五歳から六ニ歳とされていましたが、平均寿命が長くなった点を考慮して、六七歳程度まで認める方向にあるようです。しかし、余命年数いっぱいを稼働年数とはみないようです。

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