持病による入院治療費を支払う必要があるか
先日交通事故を起こし被害者に右足骨折の傷害を負わせました。警察官立会のもとに、私の方で入院費、治療費いっさいを負担し、治療期間中の休業補償をすること、ある程度の慰謝料を支払うことの約束を致しました。入院費、治寮費は直接病院の方に支払い、休業補償について収入証明書を提示するよう求めたところ、常識ではとうてい考えられない高額の収入証明書を提示してきました。さらに、心臓病を併発したので再度入院するからこの入院費、治療費もいっさい負担してくれるよう要求してきました。居べたところによると、心臓病は被害者の持病で事故前からときどき治療していた様子です。このような要求に対しても応じなければならないのでしょうか。
交通事故による損害賠償の責任とは、他人の生命または身体を害した場合に、他人の被った損害を填補して、損害がないのと同じ状態にする責任をいいます。そして、この損害賠償の内容とか範囲ならびに賠償額については、民法の規定が適用されるのです。
この損害賠償の内容ないし範囲ですが、大きく分けると、財産的損害に関するもの、精神的損害に関するもの、になります。
そして、財全的損害には入院費、治療費葬儀料など実際に支払いまたは支払わねばならない。積極的損害と、療養期間中喪失した所得の損害や死亡または労働能力の喪失低下によって得べかりし所得が喪失戚少したことによる。消極的損害とがあります。
精神的損害というのは、交通事故によってこうむった精神的苦痛を意味するもので、この精神的苦痛を金銭に評価して支払うことになります。一般に。慰謝料と称されているものです。
慰謝料算定の方法は、最終的には裁判官の合理的判断にゆだねられ、自由裁量とされていますが、斟酌する事項をあげますと、被害者側の事情として、被害者の余命年令、性別、既婚未婚の別、経略、学歴、職業、収入、資産、生活環境、社会的地位など、加害者側の事情として、これと同様の身分的、経済的、社会的関係や弔慰謝罪の有無程度、経過や処罰の結果などいうさいの事情です。したがって、事実上その算定は困難であるとともに、裁判官によって不統一になりがちです。
判例によると、損害賠償の内容および範囲は、相当因果関係の範囲内にある損害に限られるとしていますが、果たして相当因果関係の範囲内にある損害か否かを具体的に決定することは非常にむずかしい問題です。判定する基準として、必要性(医療上またはこれに準ずるもの)、相当性 (身分上または価格上)、合理性(社会上または科学上)の三点からそれぞれ考察して具体的に判断する以外方法がない状況ですが、将来判例の集積によって逐次確立されていくでしょう。
たとえば、特別な栄養食費について患者が衰弱した身休が回復するため、とくに栄誉補給の必要が認められれば、そのために要した栄養食費は、その傷害と相当因果関係(必要性)にあるものといえるでしょうし、また、特別室の入院費についても患者の地位、身分、資産などに応じて相当な待遇の病室を選択し、治療を受けるべきものと考えられるから、その地位、身分に応じた相当な限度において相当因果関係(相当性)ありといって差し支えありません。
したがって休業保障についても、必要な範囲の入院治療期間中喪失する収入について合理的根拠あるものは、相当因果関係の範囲内にあるものとして賠償すべきでしょうが、信憑性について疑いのある収入証明書くらいでは合理的根拠を欠くものと思われますし、納税証明などの調査をして結論を出すべきでしょう。
さらに、当該事故によって通常惹起される傷病については、医学上合理性あるものとして、損害賠償の対象となり得るのですが、事故に関係なく発病したり罹病しているものは、相当因果関係なきものとして損害賠償の範囲外といえます。
損害賠償額の確定に際しては、その発生原因と相当因果関係の範囲内にあるか否かを判断し、かつ正当な表付資料を確認して処理することが大切です。
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