運行管理をしていない重役にも事故の責任はあるか
民法七一五条の二項では、使用者に代わって事業を監督する者は、使用者と同じように、賠償責任を負うことになっているそうですが、会社の代表者になっても、ほと
んど出勤せず、また出動しても、車両または運転手を指揮、監督する責任がない場合に、そこの従業員が起こした事故について、被害者に対して賠償する義務があるのでしょうか。
むずかしい問題ですが、重役になってはいるが、ほとんど会社に出勤はしない、出勤はしても、自動車の直接の担当重役でなく、車や運転手の指揮、監督は、ほかの役員が担当しているとすると、その車両や運転手管理または指揮と無関係だという場合は、その重役には賠償責任はないと考えてよいと思います。
いくつか判例かおりますが、二つほどご紹介します。
静岡県の国道を、浜松方面から東京方面に向かって、大型トラック甲車が疾走していました。左側のドライブインの駐車場から、左右を確認せずに、同じ東京方面に向かう栃木県ナンバーの大型トラック乙車が、その国道に進入してきたために、その乙車に横っ腹をぶっつけられ、その衝動でハンドルが右に向きをかえ、センターラインを越えて、右側に駐車中の大型トラック丙車に激突し、このため甲車は大破し、その運転手は死亡するという事故が起きました。
そこで、甲車の運転手の遣族たちから、乙車、丙車の各所有会社および、その社長などが被告として、それぞれ訴えられることになったのです。それは、丙車は、その場所が駐車禁止区域になっているのに駐車していて、そのため二重事故になって、運転手が死亡するという結果をきたし、また乙車は、狭い国道の上り線に、安全を確かめずに乗り入れようとしたから、このような事故が発生したのだというのです。
ところが、この事件では、もう一つ別の事件が提起され、それは二重衝突でソバ杖を食った丙車の所有会社から、甲車の所有会社およびその代表取締役Aおよび乙車の所有会社を相手どって、損害賠償の請求がなされたのです。そこで、両事件は東京地裁で併合審理をされたのです。
審理の結果、A車の所有会社を含め、各会社に責任、ないし過失があることはわかったが、Aは甲車の所有会社の設立当初から代表取締役であったに相違ないが、八二才の老齢で、病弱のため出前も毎日でなく、また会社では、総務・経理を担当していたにすぎず、車の運行、管理などの現業には、全然ノータッチであることが判明し、そちらは別の専務が担当していたのでAは、こ
の事故に関しては、会社に代わって事業を監督する者ということはできないから、Aには賠償責任がないと判決を言い渡されました。
同じような事件が、栃木県の宇都宮地裁にあります。自動車販売会社のセールスマンが、自宅に乗って帰ってはいけないと、取り決められてある商業車を、会社に無断で、自宅に乗って帰ったので、翌朝早く会社に返しておこうとして、走っていたところ、田舎道の狭い場所で、前方から疾走してきたオートバイと接触し、これを溝に落として乗り手を怪我させたという事件があります。
この事件で、被害者は、会社とそこの社長を相手に、損害賠償の請求をしたのですが、その会社は、実は専務取締役が中心となって設立した会社で、社長は地方の名望家なので、名前を借りられただけというのです。
したがって、会社に出勤したこともなく、また会社の車両についても、セールスマンなどをも指揮、監督していたのは、専務自身ですから、社長には、民法七一五条二項の代理監督者責任(使用監督者責任、業務監督者責任)は、生じないと判示されています。
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