代表取締役個人が交通事故の責任を負う場合があるか

私は従業員五〇名をもつ陸送会社の代表取締役です。業務全休の総括は、もちろん私が主宰していますが、具体的な業務は自動車販売会社の構内に営業所を設置して、所長をあてて運転手の運行管理等を担当しています。ところが、わが社の従業員である運転手が起こした交通事故について、私個人にも法律上の責任があるといわれていますが、どうでしょうか。

 本問の場合に陸送会社が自動車損害賠償保除法三条または民法七一五条一項によって責任があることはご承知だと思います。他方、加害運転手も民法七〇九条の責任があることも当然です。
 さて、民法七一五条二項は、使用者に代わって事業を監督する者も使用者と同じように責任を負担する旨規定しています。法律上、これを代理監督者責任と呼んでいます。そこで、この代理監督者として責任が認められる要件として、一般につぎの同点が挙げられています。
 (1) 被用者(雇われている者)に不法行為責任が認められること
 (2) 使用者、被用者との間に実質的な使用関係があること
 (3) 被用者が事業の執行について第三者に加えた損害であること
 (4) 代理監督者が被用者の選任監督について相当の注意をしたこと、または相当な注意をしても損害が発生したことが証明されていないことがその要件です。

スポンサーリンク

それでは、どのような場合に代理監督者に当たるかを考えてみますと、使用者が被用者の現実的な選任監督をなしうる地位にあるかどうかが、判断基準として重要です。個人会社の代表取締役の地位にある者がそのことのために代理監督者に該当するのではありません。
 もっとも、裁判例をみてみますと、使用者の会社質本の規模、従業員数の多寡などによって、きわめて個人企業ないし同族会社の色彩の濃いものには、例外なく代表取締役に代理監督者としての個人責任を負担させています。
 しかしながら、さきほど述べたように、具体的な選任、監督がなされていないような場合には、代表取締役個人の代理監督者としての責任を否定しています。その意味で、代表取締役にかぎらず、専務取締役、平取締役、理事、相談役、部長、工場長、現場主任とかの呼称のいかんにとらわれず、被用者との間に具体的な選任、監督の権限の事実が認められれば、代理監督者として個人責任を負担しなければならない場合があります。
 また、職制、業務分掌によって一人の被用者につき複数の代理監督者を生ずることは、しばしばあることです。この場合、下位代理監督者に選任監督の過失があるときには、上位監督者にも過失ありとする見解もあります。
 本問の場合に、あなたの経営する陸送会社は従業員五〇名であること、運転手が常駐する営業所は別に自動車販売会社の構内に設けられ、営業所長が現実的、具体的に各運転手の運行管理等を処理していたことを考え合わせると、代表取締役であるあなたに代理監督者責任を負担させることは困難です。
 代表取締役であっても車幅の運行はもとより子会社の業務全般について、具体的な指揮監督の事実はなく、役員報酬も受けておらず、競会社から出向しての代表名義に留まり、子会社の業務全般について一般的抽象的指示、視察をする程度の関与として子会社の代理監督責任を否定された裁判例もあります。

経営者が責任を負わない自動車の使い方は/ 他の会社の車で事故を起こしたときの責任/ 倒産会社の車が起こした事故と債権者集会の責任/ 無断運転の同乗者がケガをしたときの会社の責任/ 現場の運転手の事故に社長は責任を負うか/ 運行管理をしていない重役にも事故の責任はあるか/ マイカーが通勤中に起こした事故と会社の責任/ 無断運転で事故を起こされたときの会社の責任/ 妻名義の車で夫が事故を起こしたときの妻の責任/ 下請会社が事故を起こしたときの元請会社の責任/ 企業のマークを許した運送会社の車が事故を起こしたとき/ 代表取締役個人が交通事故の責任を負う場合があるか/ 事故現場でとるべき措置と義務/ 相手に過失があるときの応答/ 事故現場で心得ておくべき事柄/ 事故現場で警察官と応答するとき/ 自分に過失がないときの対応の仕方/ 事故現場で有利な状況判断をするには/ 他人の過失で事故が起きたときの対応/ 事故現場での運転者の心得/ 実況見分書などの作成で注意すべき点/ 被害者の過失を立証する資料はどう集めるか/ 数ヶ月たってから被害者が賠償を請求/ 持病による入院治療費を支払う必要があるか/ 運転手が助手を轢いたときの賠償/ 加害者が示談するときの注意点/ 被害者が脅迫的に賠償請求するときは/ 警察官の取調べにどう対応したらよいか/ 検察官の取調べにはどう応答するか/ 事故現場から刑務所までの手続き/ 刑事事件で弁護人を依頼するとき/ 刑事裁判の手続きはどう進められるか/ 面会や差入れをしたいときはどうするか/ 保釈と保証金の取扱い/ 刑罰の種類と執行猶予の関係/ 事故の量刑はどのようにして決められるか/ 示談による解決と刑罰の関係/ 交通違反で懲役刑になるときは/ 刑の執行はどのようにしてされるか/ 故意犯にも区別があるか/ 過失犯に刑罰の軽重がでてくる理由/ 故意と過失を区別する基準/ 信頼の原則とは/ 違反現場で抗弁を聞いてくれない/ 標識が見えないときの違反はどうなるか/ 自動車検問を警察官ができる場合/ スピード違反で手錠をかけられたときの対策/ 見にくい標識を見過ごしても交通違反か/ 保険契約の手続きと要点/ 運転手は強制保険によって保護されるか/ 保険金の請求は被害者からもできるか/ 被害者が填補金を請求できる場合/ 通知義務違反を理由に保険金を払ってくれない/ 死亡による慰謝料を払ってくれない/ タクシーで落石事故にあい保険金がもらえない/ 子供の得べかりし利益の算定に納得がいかない/ 示談後に予想外に治療費がかさみ追加請求したが/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク