運転手が助手を轢いたときの賠償
トラック運送をしている会社ですが、先日会社のトラックに運転手甲と助手乙が同乗し、出発したところ途中で土砂くずれに会ったため、乙が下車して誘導しようとし
た際、甲が運転を誤ってトラックを乙に接触させ轢き殺しました。会社としては労災保険に加入していますので、乙の遺族にはさっそく、労災保険金が支給されたのですが、遺族から別に会社に損害賠償の要求をしてきました。会社としては応じなければならないのでしょうか。
自動車事故による人身事故については、民法に定められている不法行為とは別に、自動車損害賠償保障法(自賠法)という被害者救済を強化した特別法によって保護されることになっています。自賠法三条には「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したとぎは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定されており、質問の場合会社は「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)に該当しますので、その運行によって乙を害したことになります。したがって、乙が同条の「他人」に該当するのであれば、当然損害賠償責任があるといえます。
そこで、乙が。他人に該当するかいなかが問題となります。同法一条には「この法律は、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車返送の健全な発達に資することを目的とする」とうたっており、この。被害者と。他人とは果たして同義語なのか、またどの範囲の人を指しているのか検討の要があります。自動車の運行による被害者を、加害自動車に対する立場から分類すれば、運行供用者、加害自動車の運転者、加害自動車の乗客、通行人などのように加害自動車の外部にいる者の四種類が考えられます。
同法の社会的機能からみて、加害自動車の乗客や一般通行人などの被害者は、損害補填の不確実性、被害の危険度などの点からみて、電車事故や汽車事故その他一般交通事故による被害者と比較して、特殊の立場におかれていますので、同法によって厚く保護を要する被害者といえましょう。
そして、加害自動車の保有者や運転者は同法の。被害者のなかには含まれないものとされています。他人というのも、同法の体系上、被害者であり、前述の被害者と同義語として使われています。したがって、この。他人のなかには運行供用者や運転者は含まれないのです。
以上の説明で、運行供用者や運転者は自らの人身事故について自賠法による損害賠償は、請求できないことがわかったと思いますが、乙の場合には運転者として扱われるのか、他人として扱われるのか疑問が残ります。同法によれば「この法律で運転者とは、他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者をいう」と定義していますので、乙が運転の補助に従事する者であれば法律上運転者ということになります。本問の場合乙は運転の補助に従事していると思われますので、結局会社としては乙の遺族に対して自賠法上の責任は負わないことになります。
しかしながら、自賠法上の責任がないということは、不法行為の責任もないということにはなりませんから、「第三者に加えたる損害を賠償する責に任ず」と規定した不法行為責任については別個に考えねばなりません。ここにいう第三者とは、加害行為が限定されていませんので、運転者といえども該当することがあり得ます。乙が第三者に該当することは明らかですし、甲に故意または過失があれば、会社としては不法行為の使用者責任を負わねばなりません。この場合、自賠法上の責任と追って「使用者が被用者の選任および其事業の監督に付き相当の注意を為したるとき又は相当の注意を為すも損害が生ずべかりしときは」免責されるし、損害賠償請求者の方に故意または過失にもとづくものであることを立証する責任が負わされます。
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