加害者が示談するときの注意点
交通事故を起こした翌日被害者の代理人と称する人がきて、この事故についていっさいの全権をもって解決するといわれました。私も一刻も早く解決したいと思い、数回にわたって会い交渉した結果諒解点に達したので、相手方の提示した示談書という書面に捺印し、約束の金額を支払いました。ところがそれから一ヵ月くらいすると、その被害者の方から裁判が起こされたのです。示談書を取りかわしても、さらに裁判によって損害賠償を請求されるものでしょうか。
交通事故が発生すると、加害者側と被害者との間に損害賠償責任についての解決が要求されます。その解決方法は、両者の話合いによる解決(示談)か裁判手続きによっで解決するかのいずれかです。でき得れば両者話合いによって円満解決する示談が望ましいことはいうまでもありません。加害運転者の刑事上の責任も、示談ができていることによって有利な影響を受けます。
「示談」というのは正式な法律用語ではなく、法律用語でいえば「和解」にあたります。「当事者が互に譲歩を為して其間に存する争を止むることを約する」ことが「和解」です。そして、和解が成立すると、それ以後和解の内容だけが両者の義務となり、それ以前のことはうんぬんできなくなります。
とはいうものの、和解も両者の意思表示によって成立するものですから、民法の一般規定である「錯誤」による無効「詐欺・強迫」による取消しが適用されるので、「争の目的たる権利」以外の要素に錯誤がある場合は無効となり、また詐欺もしくは強迫によって示談せしめた場合にも、相手方はこれを取り消すことができます。
示談を進めるにあたって、最も重要なことは誠意をもってのぞむことです。事故が発生したら全力をあげて被害者の救護に当たることは当然のことですが、誠意をもって見舞い、謝罪、入院治療費などの負担をするなど、死亡した場合は弔慰金、香典、花輪などに配慮し、あまり長びかない適当なころあいを見計らって、示談を切り出すようにします。誠意をつくしておけば、被害者側としても人情として強く出られないし、快く示談に応じてくれるものです。
示談金額については、損害賠償の内容および範囲について前述した方法によって一応算出して参考にすることがよいでしょう。この算出には専門家の知識を必要とすることが多いので、適当な弁護士に算定してもらうとか、保険会社に相談されることが賢明です。そして、事故の状態とくに被害者の過失について自己の主張を十分述べて、適正な過失相殺を考慮してもらうことです。近年は、裁判所も交通事故の激増と厳しい世論を反映して、高額の賠償を意ずる傾向にあります。
示談の相手方は、被害者であることはいうまでもありません。傷害の場合は被害者自身ですが、死亡の場合は相続人と被害者の父母です。被害者の父母は相続人でない場合にも慰籍料請求権があります。注意しなければならないのは胎児です。胎児は損害賠償の請求権についてはすでに生まれたものとみなされます。
示談をする場合には、相手方の戸籍謄本や住民票を確認して、全員を相手にしなければなりません。相手をまちがえたり相手方の一部と示談をすれば、後日再び請求される結果となり、二重払いさせられるような憂目を見ます。
また、示談をする際被害者本人なり相続人全員と交渉する機会はまれで、代理人と交渉するときは、代理権の有無を確かめることが必要です。
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