通知義務違反を理由に保険金を払ってくれない
私の使用人が交通事故を起こし、生命保険の外交員をしていた婦人を死亡させてしまいました。そこで被害者の相続人三名と損害賠償について交渉してきましたところ
総額一三〇〇万円支払うことで話がまとまることになり、その支払いを確実にするために、被害者の相続人が簡易裁判所に即決和解を申し立てたので、和解調書を作成
しました。幸い、私は一〇〇〇万円の任意保険をかけていましたから、和解調書には、すでに払ってある強制賠償保涙金一〇〇〇万円のほか、私が保険会社から残額三〇〇万円の支払いをうけたときには、ただちに被害者側に支払うことを約束して書き入れました。私は和解調書を添付して、保険会社に残額三〇〇万円を請求しましたところ、保険会社では私が遅滞なく事故を保険会社に通知しなかったので支払えないというのです。どうしてでしょうか。
自動車保険普通保険約款をみてみると第三章一般条項ーニ条にはつぎのように記載されています。
「第ーニ条 保険契約者または被保険者は事故が発生したことを知ったときは、次のことを履行しなければなりません。
(1) 損害の防止軽減につとめ、または運転者その他の使用人をしてこれにつとめさせること。
(2) 次の事項を遅滞なく、書面で当会社に通知すること。
事故発生の日時、場所、事故の状況、損害の程度、被害者の住所、氏名または名称。
上記の事項について証人となる者があるときは、その者の住所、氏名または名称。
損害賠償の請求を受けたときはその内容。
(3) 被保険自動車が盗難にあった場合には遅滞なく、警察官に届け出ること。
(4) 被保険自動車を修理する場合には、あらかじめ、適当な修理者の詳細が見積書を提出して当会社の承認を得ること。ただし、必要な応急の手当については、このかぎりではありません。
(5) 他人に損害賠償の請求をすることができる場合には、その権利の保全または行使に必要な手続をすること。
(6) 損害賠償の請求を受けた場合に、あらかじめ当会社の承認を得ないで、その全部または一部を承話しないこと。ただし被害者に対する応急手当または護送その他緊急措置については、このかぎりではありません。
(7) 損害賠償の請求についての訴訟を提起し、または提起されたときは、遅滞なく当会社に通知すること。
(8) 第二号および第四号のほか、当会社が特に必要とする書類または証拠となるものを求めた場合には、遅滞なく、これを提出し、また当会社が行なう損害の調査に協力することと規定し、さらに第一三条には、つぎのように規定しています。
保険契約者または被保険者が、正当な理由がなく前条第二号(事故の通知)、第三号(盗難の届出)、第七号(訴訟の通知)または第八号(書類の提出等)の規定に違反した場合は、損害を填補しません。
保険契約者または被保険者が、正当な理由がなくて前条第一号(損害の防止軽減)、第四号(修理見積書の事前提出)、第五号(請求権の保全等)または第六号(責任の無断承認の禁止)の規定に違反した場合は、次の金額を差引いて損害をてん補します。
前条第一号に違反した場合は、防止軽減することができたと認められる損害の額
前条第四号に違反した場合は、正当でないと認められる類。
前条第五号に違反した場合は、他人に損害賠償の請求をすることによって取得することができたと認められる額。
前条第六号に違反した場合は、損害賠償責任がないと認められる額。
保険契約者または被保険者が前条第二号(事故の通知)、第三号(盗難の届出)第四号(修理見積書の事前提出)または第八号(書類の提出等)の書類に故意に不実の記載をし、またはその書類あるいは証拠を偽造し、もしくは変造した場合には当会社は、損害をてん補しません。
したがって、本問の場合、保険会社が支払いを拒絶したのは、約款第三章第一二条第二号および第七号に該当したからでしょう。
保険契約者が事故後遅滞なく保険会社に対し、事故の発生などを通知しなかったりまた訴訟(即決和解も含む)が出されたのに通知していないと、第一三条第一項によって保険金が支払われないことになっています。
また、仮りにあなたが、事故の発生については保険会社に通知をしていたとしても、示談をするに当たって、保険会社の承認を得ないで締結したとすれば、さきほどの第ーニ条第六号に抵触したことになりますから、保険会社の査定額の限度でしか保険金を支払ってもらえません。契約者は、このような保険約款について十分理解していないと、示談をしても結局、保険金から填補されないことになります。
もっとも、実際上、保険会社は事故の通知を受けると、加害者(契約者)に協力して示談の交渉をすすめてくれますので、問題になることが少ないかもしれません。
また、通知の内容や、約款の効力などについては、裁判上別個の法律問題に属しますので、約款にあることが直ちに裁判を拘束するものではありません。
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