無断運転で事故を起こされたときの会社の責任

自家に庭がなく、車庫を作る余地もないので、二〇〇メートルほど離れたX家にあき車庫があったので、賃料を払ってその車庫を借りていました。ところがX氏は、合鍵を使って、その車を、わたくしの承諾なしに、X氏の友人Yに貸し渡したものです。Yは酔っ払い運転で事故を起こしたところ、被害者はわたしにも賠償しろというのです。責任があるのでしょうか。

 運転免許はもっているが、車はないという者にとっては、目の前にある空車ほど魅力のあるものはなく、そのためずいぷんと事故が起きています。そのうちでも、無断運転事故は多く、そして、それにからまるトラブルがたくさん起きており、所有者、保有者、名義人が困っている事件が多いようです。

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本問に似たような裁判事件として、広島県の国道筋を、自転車に乗って走っている者に、後から自家用軽四輪自動車を運転していたドライバーが追突して、自転車に乗っていた者を、路上に転倒させ、頭には出血を、大腿骨には骨折の傷害を与えるという事故が起こりました。
 ところが、この加害者Cは、友人のBから、A所有の加害車を、Aに無断で借り出して、運転したものなのです。Aは、Bの所有している車庫が使用されないであるので、その車庫を一ヵ月一〇〇〇円でBから借り、そこに自己所有の加害車を保管していたのです。
 Bは、自己の車庫に保管されてあるAの車を、ときどき無断で、自己の用のために使用していたのですが、それはAから、車両の保管を頼まれたものでもなく、またAの使用しないときは、Bが使用してよろしいという特約があったわけでもなく、またAは、Bが時折り、無断使用していることを知っていながら黙認していたということもなく、Bが無断使用している事実すら知らなかったというのです。
 Cの使用した日、Aは所有車のエンジンキーを抜きとり、ドアに施錠したうえ、車庫の扉を閉めておいたところ、Bはかねてから持っていた、加害車にちょうど合うエンジンキーを使って、Aに無断で、Aの車をCに貸し与えたために、事故が発生したことがわかったのです。そしてAとCは、一面識もないまったくの他人同士であったというわけです。
 こういう事情だとすると、このCが加害車を運行の用に供していたとき、その運行は、Aが「自己のために、自動車を運行の用に供する者」とはいいかねるというのです。だとすれば、この事故は、BとCの責任で、Aの責任と称することができませんから、Aに被害者に対する賠償責任はないというのです。
 つまり自賠法三条の運行供用者としての賠償責任はないということなのです。
 しかし、この判決で注目しなければならないことは、AはBの車庫を、まったく自分で管理し、車の保管についても、エンジンキーを掛け、ドアに施錠し、車庫の扉も閉めておいた点です。
 もしAがBに、車の保管もまかせ、Aが使用しないときは、Bが乗ってもいいという約束をしておいたとか、あるいはエンジンキーも掛けず、ドアの施錠もしておかなかったというような事実があると、自賠法三条の適用はなくとも、民法七〇九条の不法行為の基本原則、つまり損害賠償の基本法条、「故意又ハ過失二因リ、他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ、之二因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責二任ス」という規定にしたがって、車両管理不行き届きの責任で、賠償を命じられることがあります。
 ですから、借車庫のような場合には、車庫の扉にも鍵をかけ、その鍵は車両主が保管しておかないと、以上のようなこともあるので賠償責任のうえで危険です。

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