マイカーが通勤中に起こした事故と会社の責任

私どもの工場は、郊外の農村地帯にあるのですが、従業員の中に、マイカーで通勤する者が増加して困っています。従業員のマイカーによる通勤途上、車で事故を起こされたら、会社でその賠償責任を負わなければなりませんでしょうか。もし、責任があるのだとすると、それはどういう方法で、防止すべきでしょうか。

 経営者が、従業員の自動車事故で、賠償責任を負わなければならない法律上の根拠は三つあります。
 その一つは民法七一五条一項の場合で、「事業ノ執行二付キ」第三者に損害を加えた場合です。つぎは、同条二項で、「使用者二代ハリテ事業ヲ監督スル」場合です。最後の一つは、自賠法の三条でいうところの「自己のために、自動車を運行の用に供した」場合です。
 したがって、ただ従業員の自動車事故だからといって、直ちに経営者に賠償責任が発生するわけではないのです。マイカーの通勤途上の事故で、直ちに経営者の賠償責任が生ずるというようなことはありません。

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こういう判例がありました。自動車を販売する会社の従業員が、マイカーを運転して交差点で、横断歩道をわたっていた婦人を転倒させて、負傷させた事件がありました。
 ところが、この車には、その販売会社か従業員教育のために催していた研修会の講師三名が同乗し、そのうちの一人は、その運転者の実の叔父であったというのです。
 また、その販売会社は、従業員の自動車購入には便宜を与え、駐車場を無料で使用させ、ガソリン代を通勤手当として支給していたというのです。
 そこで、被害者の方では、運転手のほかにこの販売会社をも被告として訴え、その理由として、以上の原因を挙げていますが、そのことは、会社自身が、従業員にマイカー通勤を奨励することであり、その結果、会社は従業員の作業能力増進という利益を得ており、そのことは会社の業務とも関係ないとは言いきれず、結局本件事故の場合も、会社の利益のために運行されていたものと判断すべきだというのです。
 ところが、裁判所が調べてみると、マイカーの持主が、研修講師を乗せたのは、久しぶりに会った叔父、甥の関係で、他の親戚の家に行こうとして、当人らの話合いで乗せたので、たまたまそこに翌日の準備のため居残っていた他の二名の講師も、乗せてくれと便乗したので、会社が送迎を命じたのではないというのです。
 また、会社では、講師には出張旅費を現金で支給して、乗物は講師の自由に任せていたというのです。また、自動車の販売会社だから、自社の従業員に購入の便宜を与え、駐車場を無料で提供し、ガソリン代を通勤手当として支給したとしても、それは従業員全部の厚生福祉として一般的に供与したもので、むしろ、会社は、マイカーを営業には絶対に使わないように厳禁していた事実が窺われるから、この場合、会社は運行供用者ということはできない。また叔父、甥がそろって親戚に行くために同車したということは、会社の業務にも属さない。そうすると、自賠法の第三条にも該当しないし、後者の場合は民法七一五条にも相当しないとして、販売会社の責任はないと言い渡しています。
 そこで、本問の場合も、マイカーが、日ごろから会社の業務行為をほう助しているとか、セールスや集金に利用されているとかなど、会社のために運行の用に供されている事実がないかぎり、あるいは業務行為の範囲に属する運行をしている場合でないと、会社に責任が及ぶことはありません。
 したがって、対策にまで言及する必要はないと思いますが、事故防止対策委員会、自動車管理規定などを作って、事故防止をするとか、支給する通勤手当で、任意保険に加入させるのが、良策だといえます。

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