企業のマークを許した運送会社の車が事故を起こしたとき

N製菓株式会社は、都内各地に販売店をもち、A運送会社に配送を請け負わせています。A運送会社は、車体にN製菓のマークを表示した自動車で定められたコースを毎日回り、配送していますが、とくにN製菓から社員が派遣されてこの車に同乗することはありません。配車、運行管理も運送株式会社で独自に行なっています。A運送株式会社は食品関係の運送を業務としており、ほかにM食品の運送部門も担当しているとのことです。ところで、N製菓のマークを表示したA運送の自動車が、配送中に事故を起こした場合、N製菓株式会社の責任はどうなるのでしょうか。

 本問の場合A運送株式会社に損害賠償責任があることはいうまでもありません。一般に請負契約の場合に、請負人が第三者に加えた損害につき注文者は責任を負わないのが原則です。
 しかし、自賠法三条の運行供用者責任がしだいにその範囲を広げていく傾向につれて、本問のように注文者N製菓の責任が問題になる場合も十分考えられます。

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運行供用者責任の存否の判断基準として、運行支配と運行利益の二つの要素を取り上げるのが通常ですが、請負人の運行支配、あるいは運行利益を認定するにさいし、具体的にいかなる要素を考慮するかは問題です。
 裁判例においては、元請人と下請人の使用者責任として認められたものが参考になりますが、元請人の運行供用者責任を認める場合には一つは元請人、下請人間に密接な人的関係があることです。たとえば、業務の専属的関係、下請人への社員派遣などによる業務の関与、事務所や敷地、機材、資材を貸与していることなどがその実例です。
 いま一つは、元請人と加害車両との間に密接な関係があること、たとえば、元請人所有の車を貸与しているとか、車のガソリン代、修繕費を負担するとか、車体は元請人のマークを表示するとかがそれです。加害車の運行が依頼された業務の執行中であることも加害車と元請人の密接な関係を証明するものといえましょう。
 これら元請人の責任の判断要件の中で、もっとも重視されているものは、業務の専属的な関係であるといえます。下請人の専 属的関係が運行支配、利益をもっとも象徴的にあらわしているからです。
 そこで、本問の場合を検討しますと、A運送はN製菓の運送部門のほかに、M食品の運送も担当しているのですから、その業務の占める割合比が専属的関係を定めるものとして重要です。
 その割合比が五〇パーセント程度で専属性が希薄ならばN製菓にはA運送の自動車がN製菓の運送業務を執行中に交通事故を起こしたとしても、責任を認めることは難しいでしょう。さらに本問ではN製菓から社員が派遣されて配送業務に関与することもないとのことですし、配車、運行管理もA運送独自に行なっているのですから、N製菓に運行供用者責任を認めることはますます困難でしょう。
 車体に、業務を依頼した企業のマークが大きく表示され、あたかも外観上マークにあらわれた会社の自動車であり、その業務の執行中とみられる自動車かありますが、そのことのみによって運行供用者責任が発生するものではありません。
 要は、業務を依頼した会社とこれを請負った会社の実質的な関係が、運行供用者責任を認める判断基準になるのであって、先ほど述べた専属的な関係、両会社の密接な人的関係あるいは加害車と運送を依頼した会社の密着度を総合して決められることを付加しておきます。

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