他の会社の車で事故を起こしたときの責任

自動車を運転していない、また自動車の管理などについても、まったくなんの関係もない従業員が、店に出入りの他社の従業員のすすめで、その他社の車を運転してお かした事故について、雇主に賠償責任があるのでしょうか。実は自社の従業員が、自動車の操作もできないのに、よその車に乗って他人を怪我させ、自社が損害を要求されて困っています。

 カーキチという言葉があるくらいで、若い者にとっては、自動車には魅力があり、そのため、あたら一生を台なしにしてしまっている人間も少なくありませんが、それよりも他人に迷惑をかけ、自からは賠償応力がないた始、関係者に多大の損害を与えている事件が多いのは、正直困ったことだと考えます。
 従業員が、事故を起こせば、雇主に賠償責任が発生する場合の多いのはたしかですが、法律は人を雇っていたら、雇主は、従業員の起こしたいかなる事故についても、賠償責任を負えとは申していないのです。

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雇主の賠償責任、これを法律上正確にいうと、使用者賠償責任というのですが、そのことを規定した民法七一五条一項には「或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ、被用者力、其事業ノ執行二付キ第三者二加ヘタル損害ヲ賠償スル責二任ス」と規定しているのです。
 したがって、雇主の「事業ノ執行」に関係のない事故は、たとえ自分のところの従業員の起こした事故でも、雇主に賠償責任がありません。もっとも、この事業の執行というのは、広く解釈されて、外形的、客観的に見て、事業の執行の範囲と見られるかぎり、具体的に雇主の事業を遂行中の事故でなくても、雇主に賠償責任があるとされています。
 本問の場合も、だいたいにおいて、賠償責任がないようにうかがわれますが、最近つぎのような実例を見つけましたから、比較して検討してみてください。広島市の大手町にあるスーパーマーケットに、納入品の検査や商品を陳列棚にならべる仕事をしていたAという一九才の少年がいました。同人は、原付自転車に乗った経験はあるが、自動車については、大型小型を間わず、免許も運転の経験もなかったのです。
 ところが、ある日このスーパーに出入りしている佃煮、漬物、味噌などの製造および卸売商をしているBという商店の店員Cトラックをとめて車を離れた際に、このAが、いたずらにエンジンを始動したくなって、無断で運転席に座ってエンジンをかけはじめたのです。
 そこへCが帰ってきましたが、Cは怒るどころか「乗ることができるのか」「クラッチを踏んでみろ」といって、Aがクラッチを踏むと、レバーをセカンドに入れてやったというのです。発車した車は、四〇メートルほど進むと、時速三〇キロぐらい になったので、Cが「ブレーキを踏め」と指示したら、Aはあわててアクセルを踏んでしまったので、車は暴走し駐車していた車に衝突、さらに通行中の女性に衝突し、スクーターとその持主に衝突して持主を負傷させ、煙草屋を破損し、最後に街灯柱に衝災してようやく停車しました。
 この事故でAの雇主であるスーパーも訴えられ、一審では賠償を命じられましたが、不服で控訴したところ、広島高裁は雇主のスーパーには、全然責任がないとして、BとCとだけ賠償しろと言い渡したのです。
 その理由は、Aは自動車を運転することは業務内容でなく、またこれまで業務のために自動車を運転したこともなく無断運転したときも、上司の許しを得たものでなく事故の現場は店舗外の一般道路で、車は他人の物で、スーパー営業は車と関係のない商売だから、事業の執行のためになされたとはいいがたいというものです。

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