無断運転の同乗者がケガをしたときの会社の責任
従業員が盗み乗りをして、その結果事故を起こして、困っています。当店でも、従業員らが、仕事が済んでから、店の車を無断で乗りだし、衝突事故を起こし、乗っていた従業員の一人が大きな負傷をしたのですが、このほど経営者を相手に損害賠償の請求をしてきました。責任があるのでしょうか。
自動車事故で、負傷した者が、通行人その他第三者であると、たとえ無断運転であっても、また終業後の事故であっても、外見上、会社の業務執行となんらかわりないということで、民法七一五条一項の規定で、雇傭主に賠償責任が負わせられています。
ところが、その無断運転の仲間となった従業員が被害をうけた場合は、雇主の賠償責任か免除される事案が多いようです。
消防団員一三名が、町の消防自動車を引っ張りだして、温泉に慰安旅行に出かけたものです。翌日その帰り道に坂を下ってきたところ、車が暴走し、電柱にぶつかり、民家に飛び込んで、乗車していた団員数名か死亡するという事故が起きてしまったという事例があります。
その死亡者の一人が、ひとり息子であったうえ、役場の弔慰金がわずかだというので、その遺族が町長を相手どって損害賠償の訴訟を提起したのです。それは、消防自動車は町の施設だし、町長が消防長を兼ねていたからです。
ところで、町長は、消防長として、消防団員に対して、「とかく、火災というものは、消防車か町を離れているようなときに発生しがちだから、町外に車を乗りだしたり、火災以外に消防自動車を利用したりするようなことのないように」と、くれぐれも注意を喚起していたというのです。
そこで、消防自動車を慰安旅行に利用するなどという行為は、一種の不法行為だということになったのです。つまり、犯罪とまではいかなくても、地位を濫用した不正行為だというのです。そうだとすると、死亡したその団員もまた悪いことに加担したのですから、自分で無断運行という不当行為に加わっていながら、被害の賠償責任を町長が負うというのは筋違いではないかというのです。
結局、自業自得だから、町にも、消防長にも、責任はないということになったのです。この場合、その自動車が、本当に火災の現場に向かっているような際に起こった事故であれば、その車の運行は「公権力」の発動となりますから、その場合は、国家賠償法の一条で、その車両を保管、管理する「国または地方公共団体」が責任を負うことになります。
しかし、たとえ消防自動車の事故でも、火災の現場から帰署するとき、あるいは防火宣伝のため町をまわるとき、あるいは出初式に出動するような場合には、いつも民法七一五条の、雇傭主としての責任が発生するのですが、この場合にはその責任もないというのです。
また名古屋地裁では、会社の従業員の四名が、終業後一杯のみに行こうということになり、そのうちの一人Aが、会社に無断で、会社の自動三輪車を引きだし、他の三名を乗せて目的の飲み屋に疾走中、歩道に衝突し、オート三輪だから、安全なシートがないため、その一人を転落させ、死亡させた事件では、たとえその車が会社所有のものであっても、またそのとき、車を運転していた者が、会社の正式の運転手であったとしても、飲み屋に酒を飲みに行くことは、死亡者をはじめ四名の従業員の私用であって、これを会社の業務執行とは認定することができないから、雇主である会社には責任がない、という旨の判決が言い渡されております。
したがって、本問の場合も、商店には責任がないと判断してよいでしょう。
経営者が責任を負わない自動車の使い方は/ 他の会社の車で事故を起こしたときの責任/ 倒産会社の車が起こした事故と債権者集会の責任/ 無断運転の同乗者がケガをしたときの会社の責任/ 現場の運転手の事故に社長は責任を負うか/ 運行管理をしていない重役にも事故の責任はあるか/ マイカーが通勤中に起こした事故と会社の責任/ 無断運転で事故を起こされたときの会社の責任/ 妻名義の車で夫が事故を起こしたときの妻の責任/ 下請会社が事故を起こしたときの元請会社の責任/ 企業のマークを許した運送会社の車が事故を起こしたとき/ 代表取締役個人が交通事故の責任を負う場合があるか/ 事故現場でとるべき措置と義務/ 相手に過失があるときの応答/ 事故現場で心得ておくべき事柄/ 事故現場で警察官と応答するとき/ 自分に過失がないときの対応の仕方/ 事故現場で有利な状況判断をするには/ 他人の過失で事故が起きたときの対応/ 事故現場での運転者の心得/ 実況見分書などの作成で注意すべき点/ 被害者の過失を立証する資料はどう集めるか/ 数ヶ月たってから被害者が賠償を請求/ 持病による入院治療費を支払う必要があるか/ 運転手が助手を轢いたときの賠償/ 加害者が示談するときの注意点/ 被害者が脅迫的に賠償請求するときは/ 警察官の取調べにどう対応したらよいか/ 検察官の取調べにはどう応答するか/ 事故現場から刑務所までの手続き/ 刑事事件で弁護人を依頼するとき/ 刑事裁判の手続きはどう進められるか/ 面会や差入れをしたいときはどうするか/ 保釈と保証金の取扱い/ 刑罰の種類と執行猶予の関係/ 事故の量刑はどのようにして決められるか/ 示談による解決と刑罰の関係/ 交通違反で懲役刑になるときは/ 刑の執行はどのようにしてされるか/ 故意犯にも区別があるか/ 過失犯に刑罰の軽重がでてくる理由/ 故意と過失を区別する基準/ 信頼の原則とは/ 違反現場で抗弁を聞いてくれない/ 標識が見えないときの違反はどうなるか/ 自動車検問を警察官ができる場合/ スピード違反で手錠をかけられたときの対策/ 見にくい標識を見過ごしても交通違反か/ 保険契約の手続きと要点/ 運転手は強制保険によって保護されるか/ 保険金の請求は被害者からもできるか/ 被害者が填補金を請求できる場合/ 通知義務違反を理由に保険金を払ってくれない/ 死亡による慰謝料を払ってくれない/ タクシーで落石事故にあい保険金がもらえない/ 子供の得べかりし利益の算定に納得がいかない/ 示談後に予想外に治療費がかさみ追加請求したが/
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