下請会社が事故を起こしたときの元請会社の責任

当会社の従業員であった者が、当社の社長の了解を求め、独立して別会社を設立しました。その新設会社は、一時当社の営業所の一部に事務所をおき、当社の社長が、 設立当初のニカ月ほど、新設会社の社長を兼ね、また当社の請負工事の一部を下請けさせたことがあるのですが、その下請会社の起こした交通事故につき、当社が責任を負わなければならないのでしょうか。

 下請けと元請会社の関係では、一般的には下請業者の所有車でも、その車が事故を起こせば、自賠法三条の規定によって、元請会社に運行供用者の責任が発生することになって、元請会社がその損害賠償の責任を負わせられる事例が多いのです。
 ことに、砂利販売のために、運搬を下請けさせたような場合は、その砂利などの採取販売業者に、この運行供用者の責任を認め、被害者に対して、賠償を命じている裁判は、いくつとなくあるのです。

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しかし、自陪法の三条は、「自己のために、自動車を運行の用に供する者は、その運行によって、他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しているのです。
したがって、下請けの自動車事故の場合でも、元請け、下請けの関係さえあれば、なんでも元請けに、その事故の賠償責任が発生するのではなくて、事故を起こした車の、そのときの運行が、元請けにとって、「自己のために、自動車を運行の用に供する」ことになるのかどうかの認定にかかるのです。
 それゆえ、下請けの事故を起こした車の、そのときの運行が、元請けのために運行の用に供されているのでなければ、元請けに賠償責任は発生しません。最近は、こうした事故の車の具体的な事情を検討しながら、元請けの賠償責任を否定する判決も続々とでてきました。そこで、実際にあった裁判例の一つを、説明します。
 A会社に勤めていた者がやめて、建築を主とした営業目的とする会社を、設立したのです。これをかりにB会社とすると、A会社は、主として土木工事、ことにブルドーザー土木請負に重点をおくもので、B会社は建築工事を主たる営業目的とする会社であったのです。
 そして、設立当初、B会社は、その事務所をA会社の営業所内におき、B会社の社長として、A会社の代表者に就任してもらい、B会社の監査役として、A会社の監査役に就任してもらったというのです。そのうえ、設立当初、まだ自ら土木工事、建築工事を行なうことのできる物的設備や人的設備を備えていなかったので、受註した仕事を、A会社に下請けしてもらったということです。
 ところで、事故は、A会社の保有していた小型貨物自動車を、A会社所属の運転手が運転して、そのA会社の社長の命令で、B会社から請負った下請仕事の連絡のために運行していた途中で、たまたま発生したというのです。
 そこで、被害者らは、元請けであるB会社を相手どって、損害賠償の請求をしたのです。
 一審では、B会社が敗訴になったのですが、これに不服で、高裁に控訴していったところが、高裁は、この場合下請けの事故で、元請けであるB会社には責任はないとして、一審の判決を取り消し、B会社を勝たせたのです。
 その理由は、この場合、役員を共通にし事務所を一つ場所においても、両社は実質的に同一会社ではない。A会社の社長が、B会社の社長になり、同じく監査役が両社の監査役を兼ねたのは、いずれもB社を設立した者の懇請によったものである。そして元請けよりは下請けの方が規模も組織も大きいので、全然その下請業務の指揮監督をしていた事実がないのだから、自己のために運行の用に供した者ということができないというのです。
 以上のように元請けと下請けの関係があるだけで元請会社に責任ありとは断定できず、その他に実質的な結びつきの強弱により責任の有無は決定されます。すなわち下請会社が元請会社の指揮監督下にあるとか、元請会社の名義を使用しているなどの 特別事情があれば、元請会社の責任は免れないでしょう。

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