示談による解決と刑罰の関係
法律家でない人、とくに事故を起こした人の立場からみれば、被害者と示談ができたか、どうか、それによって裁判所がどんな刑をいい渡すかということは関心の的だと思います。
ここでも、裁判所は、示談ができたか、できないかの一つの終点からだけによって刑を決めることはしません。示談ができていても、禁錮刑の実刑をいい渡すことがあります。
これに反して、示談はできていないけれども、示談のためまじめに努力しており、示談が遅れていることにやむを得ない理由
があると認められるときは、示談のできないままに、裁判所は禁錮刑の執行猶予か罰金かを言い渡すこともあります。
もちろんボーダーラインにあるケースもたくさんあって、示談ができれば執行猶予、示談ができないから刑務所行きという場合もあります。しかしそれが全部ではありません。それなら、いっそのこと、示談をしても刑務所行きなら、示談金を払うだけ損だと考える人もあるかもしれません。
しかし、裁判所が示談のできている事件について禁錮刑の実刑をいい渡すときには、示談がでぎていることを考慮に入れた上で、示談ができていない場合にくらべて刑罰を軽くしているはずです。
もっとも、純粋に法律論だけ考えると、示談というのは民事上、損害賠償として支払うべきものを支払ったにすぎないのだから、刑罰の量定とはなんら関係はないという考え方もあります。法律論としてだけ考えればそうかもしれません。またこのような法律論で割り切っても、誰もおかしいと思わないような社会的基盤のある文明諸国では、それでよいと思います。
しかし、わが国では、加害者側には自動車以外にめぼしい財産がなかったり、その自動車も所有権が自動車販売会社に留保されたものだったりして、結局、加害者側が親戚知人から金を借りてきて支払ってくれなければ、被害者にはそのほかに財産的にみて救済のみちがないこともあり、そういうことから加害者側の誠意が、その事故に対する後悔を意味するものとして、刑事裁判所でもしんしやくしなければならないことになりましょう。
それにしても、どんな大きな事故を起こしても、示談さえできていれば必ず執行猶予になると独断している人は、ときに失望することがあるかもしれません。
示談に技術とかかけひきが必要なことは認めますが、中心は誠意だと思います。こんな例があります。
事故を起こし数日後に早くも示談が成立し、損害金を分割して毎月支払うという約束ができたのですが、はじめの二年間履行しただけで、あとはナシのつぶてです。こんな示談は被害者をペテンにかけたようにも思われ、示談ができているがゆえに余計に悪くみられるかもしれません。
また、いったんできた示談が、またこじれ出すこともあるもので、示談は早いばかりがよいとも限らず、慎重にしっかりしたものを作る必要があるように思われます。
示談とはちょっと違いますが、被害者や遺族の感情をやわらげるように努力することも大切です。病院へお見舞に行ったり、お墓へお線香をあげたり、もし運転手が自分で行くとまずい空気になるおそれがあれば、雇主とか家族の者が代わりに行くとかすることは必要だと思います。
日本人はウェットな国民ですから、案外こんなことが大事なので、示談は金だけとドライに割り切ることはでぎないように思います。
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