信頼の原則とは
信頼の原則という言葉は、ドイツの判例理論のなかから生まれ、その後日本でも関心を持つようになり、現在ではほぼ定着しつつある理論といえます。
簡単にいいますと、「運転者の行為によって事故が発生した場合において、その事故発生の結果が、とくに運転者側からみて特別な事情がない限り、被害者または第三者が交通法規を守るであろうことを信頼して行動したにもかかわらず、予想外の法規違反の行為によって事故発生をひき起こした場合は、運転者は事故発生についての法的責任を負わない」という原則です。
この原則に従えば、運転者は他人が交通規則違反の態度にでるであろうことまで考えて運転しなくとも良い、ということになります。
自動車の危険性のみを強調し運転者に過酷な罰のみを科していますと、今日の社会においてはたす自動車の効用性を見失うことになります。行為の危険性と社会的な有用性をはかりにかけて、一定の枠内では危険を許すこともやむをえないといわざるをえないでしょう。
この一定の枠を決めているのか交通法規なのです。交通法規に違反しない限り、危険は許されるということです。したがってこれに対応して被害者は危険を回避するための努力が要求されます。
第三者は、適法な行動をとっている運転者の行動を是認し、違法な行動にでることによる危険はみずからが背負わねばならぬということになります。
判例で信頼の原則が採用されたのは、昭和四一年一ニ月二〇日の最高裁第三小法廷の判決です。この事例は右折中に右側方から突然飛び込んできた車に衝突してしまったもので、裁判所は他車が交通法規を守って進行してくることを信じて行動すれば足りるとしています。
また類似の事例として、赤信号を無視して交差点に進入してくる車軸まで予想して運動すべき注意義務はないとした、昭和四三年一ニ月四日の最高裁判決がでています。
自車の直前で突然に右折を開始する車両に留意する必要はないとする昭和四五年一一月一七日の最高裁判決、高速度で突入するような車両を予測する義務はないとする昭和四三年一ニ月一七日の最高裁判決などもでており、高裁や地裁には多くの判例が積み重ねられつつあるところです。
この原則の適用にあたって、重要なことは、第一に行為者自身が交通法規を守って運転していることです。相手に過失があっても、当方にも違法があれば問顛にならないわけです。
第二に相手方を信頼できる状態になければならず、法規違反にでるであろうことが予想されている場合は適用されません。無謀運転をしていることがわかっていれば、事前にこれとの危険を回避する義務が生ずるからです。
第三に幼児老人酩酊者など要保護者については、交通法規の遵守を求めることは困難ですから、これらに対する危険防止の義務があり、この場合には信頼の原則は不適用となります。
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