経営者が責任を負わない自動車の使い方は
従業員が会社の自動車で起こした事故のときは、たとえばそれが私用のときでも、会社とか、所有者である経営者の責任になり、事故の被害者に対して事故によって発
生した損害の賠償をしなければならない、といわれています。その対策として、車を持っている運転手と月ぎめ契約をしたらどうでしょうか。また営業マンに自家用車を買わせ、ガソリン代や月賦代金を援助して、営業活動に使わせたらどうでしょう。事故が起きたばあい、会社や経営者は損害賠償を負わないですませることができないでしょうか。
自動車は事業活動のためにはぜひ必要なものですが、交通事故による損害賠償義務がひろく経営者、事業主に負わされるようになりますと、一度事故を起こすと、事業の存立を危うくするようにもなります。また運転手を雇うと、労働問題、人件費の負担など、厄介な問題を背負い込むので、二の足をふむということがあります。
経営者事業主が交通事故の損害賠償義務を負担せず、しかも自動車を所有して使用しているのと同様の利用をしたいという希望が生まれてくるのも自然です。それならば、まず、乗用車の代用としてタクシー、ハイヤーなどを利用すればよいではないかといえます。
通常のやり方でタクシー、ハイヤーなどを利用していれば、その自動車が交通事故を起こしても、乗客または利用している経営者事業主まで賠償責任が及ぶことはありません。タクシー会社、ハイヤー会社が、自動車の運行供用者としていっさいの責任を持ってくれるからです。
しかし自家用車でいきたいというばあいは、タクシー、ハイヤーは不適当です。本問の、自動車持ちの運転手をたのかというのも一方法です。自家用車を持ち、かつ運転手も雇っているという外観を十分に表わすことができます。しかも事故のばあいの第一次責任者は、自動車の所有者であるその運転手であるということになりますから便利です。ただ注意しなければならないのは、自動車は運転手のものであっても、その運転手と雇用契約を結んでしまいますと、運転手はあなたの事業の従業員となり、民法七一五条一項で、交通事故の賠償責任は、使用者であるあなたに及ぶことになります。また自動車を借りる契約をしても、これによって、あなたは自動車損害賠償保障法により、その自動車の保有者として、やはり事故による賠償責任を負うことになってしまいます。
したがって、車を持ち込む運転手との契約は、運転手の雇用契約でもなく、自動車の賃貸借の契約でもなく、人あるいは物を運ぶことについての返送契約、請負契約などでなくてはなりません。
車付の運転手を、独立の運送業者であるとして扱うような契約を結ばねばならないと思います。
それでも、その運転手と長い期間にわたる契約をし、あなたの事業の専属のようになってしまうと、自動車の所有名義いかんに関係なく、あなたがその自動車の運行によって利益を受けていること、専属契約によってある程度その自動車の使用者として支配権をもつなどの外観から、責任を負わされることが多いので、ご注意ください。
つぎに営業マンに個人名義の自動車をもたせ、営業活動をさせるという点は、交通事故による賠償責任を事業主として逃れるという目的からは、おすすめできません。個人所有の車でも、会社や事業主の業務に提供されていれば、会社または事業の業務のために走り回っているときの事故はもとより、個人の用で走っているときも、会社または事業主か事故によって発生した損害を賠償させられる傾向にあります。
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