身元保証人から賠償金を取立てたい

私は、A社に勤務するBが運転していた自動車に跳ね飛ばされて、全治六ヵ月の重傷を負いました。損害賠償金についてA社とBを相手に交渉しましたところ、A社にもBにも資産が無く、支払いは長期の割賦ということになりました。しかし、Bには資産家の父があり、A社に入社する際、Bの身元保証人になっています。今回の事故は、全くBの過失によるものですから、身元保証人である父親から賠償金を支払ってもらえないでしょうか。

 まず結論からいいますと、Bの父親が自発的にあなたの請求に応じた場合は別ですが、そうでないかぎり、今回の交通事故がいかにBの一方的過失によるものであるにしろ、BのA社入社に際しての身元保証を理由に賠償金の支払いを、Bの父親に対して請求することは認められません。
 すなわち、Bの父親はあなたからの請求に対し、その支払いに応じなければならない法律上の義務はありません。また、Bは成年者ですから、この点からも父親に責任はありません。

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身元保証は、使用者が被用者の人物や能力を使用の当初は十分に知らないのが普通なので、被用者が使用者に与えることがあるかも知れない損害を担保するという性質のもので、一般に会社や銀行などに入るとき「御採用の上は、御社在社中は固より、退社後と雖ども一切御迷惑はおかけいたしません」というような一札を入れる形式でなされています。
 したがって、身元保証も他の金銭債務に対する保証などと同じように、あるいは特定の者(一般に入社する会社などの歴先)に対してのみ保証するもので、特定の対象を定めずに抽象的に、すなわち、誰れ被れに対しても、被身元保証人の為した損害を担保しようというものではありません。
 仮りにそのような意味のものであるとす るなら、身元保証が他の金銭債務などに対する保証と異なり、最初から保証額が未確定であるということと相俟って、その責任はあまりにも無限で酷に過ぎ、身元保証人になるものは誰もいなくなるでしょう。
 今日の社会では一般に、親族間などの情宜で、拒み難い事情からやむなく、または軽率に身元保証をしている場合がほとんどです、そこで特定人に対する身元保証であってもあまりにも予想に反して酷にならないように、法は身元保証人の責任を厳格に規制しています。すなわち「身元保証に関する法律」で保証期間、責任の範囲、賠償額などに対し、厳格な制限規定をおいています。
 以上でおわかりのように、Bの父親は、A社に対して身元保証をしたのですから、BがA社に対して損害を与えたとき、すなわち、本件の交通事故でBの過失行為によって与えた損害を、使用者責任としてA社が賠償金を支払ったときは、A社はBの父親に対してその支払分を損害として、前記の身元保証に関する法規の条件の下に、その支払いを請求することができることになります。
 したがって、あなたの立場からは直接身元保証人であるBの父親に対しては、交通事故の損害賠償を請求するわけにはいきません。しかし、父親に資産があるのですから一時父親から融通してもらい、A社とBが連帯して父親に返済するという方法か、少なくとも、割試金の支払いに対し、父親が連帯保証人になるなどの方法を交渉してみてはいかがでしょうか。
 Bを通しての交渉で無理な場合は、裁判所にまずA社とBを相手に訴を提起し、裁判上の和解で、Bの父親を利害関係人として呼んでもらい裁判官から説得してもらうという方法も考えられます。

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