賠償義務者が複数の場合の請求の相手は
私が事故で負傷を受けた加害自動車は、自動車愛好クラブの仲間三人が共同で買ったものを月賦で支払い中のものであり、当日運転していた運転者はその買主とは関係
のない人が、その仲間ので人の承諾を得て一日だけ借りていたものです。しかも、その運転者は一八才で全然資力のない男です。当日自動車のガソリン補給のために父
親から三〇〇〇円もらって、父の知人宅に昨夜父が忘れてきたカバンを取りに行く途中だったのだそうです。こんなときに私は、誰れにどんな順序で賠償請求したらいいでしょうか。
交通事故の場合には、加害者は復数となるのが普通ですが、こんなに当事者の数の多いのは珍らしいことです。まず、考えられる加害者の候補者は、(1)自動車の販売会社、(2)自動車の買主である仲間三名、(3)運転者本人、(4)運転者の父親、(5)自動車愛好クラブなどです。
このうち(5)は法律上問題とならないと思います。ただ、そのクラブが加害自動車を事実上管理保管して、自動車に対する支配
権を有していると、自動車損害賠償保障法の保有者としての責任を負わなければならない場合がありますが、単なる愛好者の集まりで、その団体として独自の活動をしていなければ、問題とならないでしょう。
(1)については、近年出された裁判例があります。単に所有名義人であって、自動車の本来の用法による利益を受けない者には賠償義務はないと言うのです。要するに自動車を商品として扱っている業者は運転自体には関係のないことですので、月賦代金をもらっているということだけでは、交通事故による責任を負わなくてもよいというのです。当然のことだろうと思います。
これに対し(2)の買主は、月賦の代金を支払いながら、その自動車を、本来の用法に従って、利用運転できる立場にあるものです。そして、これを誰れに対して、いくらで貸すかも自由です。買主の承諾がなければ、他人は運転することができず、本件の運転者も買主三名の内の一人の承諾を受けています。
自動車の管理保管の状況から、この三名が保有者の立場にあることは、まちがいないでしょう。
したがってこの三名は賠償義務の責任があります。三名の出資金の割合すなわち、持分の割合が同一なときには、このような事故による責任も平等に負うことは常識上もはっきりしますが、持分が違うときはどうかという問題があります。
しかし、問題の自動車に対する支配権がどんな状態にあったかということは、いわば、内部的なことであって、その自動車を返札する借に対しては、共同して承諾を与えなければならない立場ですから、すべて同一の立場で責任を負うことになります。
共有者の三名のうち、一名が承諾して他の二名が何も知らなかった場合、その二名の者に責任追求できるかどうかという問題もあります。これは難しい問題ですが、三名ともその自動車の支配権をもつ以上、各別に具体的に承諾を得なくても責任を認めるべきものと思います。なぜならば、おそらく三名の者は、それぞれ鍵をもつことによりその自動車を保有するのですから、一人の者が他人にその鍵を与えればその自動車の全支配権を渡すことになり、もはや他の二人が自動車の運転を止めさせることはできなくなる意味で、やはり全員に責任を負わせるのが妥当と思われるからです。
運転者本人である(3)については、当然責任追求ができます。運転者が未成年であっても不法行為の能力はありますから、幼児の場合と異なり他の者、たとえば親権者である両親が代わって責任を負うような場合ではないからです。
(4)の父親は損害賠償の相手方となるでしょうか。これは、父親が命じて用事をいいつけている関係上、使用者責任を追求できると思います。ただし、自賠法の関係では保有者というわけにはいかないでしょう。
結局、賠償請求の相手方とすることができるのは、(2)、(3)、(4)の合計五名です。損害賠償の請求は五名全部に対して、同時に、しかも被害額全額を各人に対して請求できます。
また、そのうちの一部の者を相手として請求することも自由です。法律はできるだ
け被害者を救済しようとする趣旨で、これらの者を同時に相手とすることを許しているのです。
なるべく資力のありそうな者を相手にしたほうが早く支払ってもらえる可能性が強いわけです。そうなると(4)が最も適当な相手でしょう。これは、父親の子供に対する愛情に訴えるという意味でも、早く解決できる見通しがあるからです。
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