分割払いで賠償金を取るときの注意

私は、個人タクシーに跳ねられという重傷を負いました。加害者知ら、営業開始後間がないので、蓄えもなく一度に賠償することができないから、月賦にしてくれと懇請されました。真面目そうな人ですが、相当長期の月賦になりますと、はたして最後まで確実に支払ってもらえるかどうか心配です。最後までキチンと支払ってもらえるようにするには、どうしておけば安心でしょうか。

 示談が成立し、示談書を取りかわしても、必ずその通りに支払ってもらえるものとはかぎりません。したがって、確実に支払いを受ける最も良い示談の方法は、一時に全額を、示談書の交換と同時に支払いを受けることです。
 しかし本問のように、加害者に蓄えが無い上、賠償額が多額になりますと、一時払いが無理である場合が多く、月賦とか年賦とかのいわゆる分割払いということになります。したがって、被害者の立場からは、あなたのように心配なさるのも当然です。
 しかもこれは人情というものかもしれませんが、事故直後は、加害者も事故の重大さに驚き、誰でも損害についてはできるかぎり、誠意をもって支払おうとする意思が強いのですが、日時がたつにつれて、その気持が薄らいでくるのが一般です。したがって、被害者としては、ある程度、念を入れて支払いを確保する方法を講じておかねばなりません。

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それでは、本問のように長期の月賦などの分割払いのときには、どのような手を打っておくべきかつぎに述べましょう。
 第一に、示談の内容として、支払期間、支払日および支払場所、分割払いの金額の定めのほかに、過怠約款を明確にしておくことです。
 過怠約款とは、加害者が支払いを怠ったときの罰則です。これには一般に期限の利益の喪失と遅延損害金の定めがあります。すなわち、分割払いのときは、割試金の支払いを何回か遅滞したときには、もはや分割払いは認められず、残額を一時に支払わなければならなくなります。普通、二回ないし三回以上の割賦金の支払いを怠った場合は、期限の利益を失うと定めているようです。また以上のように、支払いを遅滞したときは、遅延損害金を幾ら、と定めておくことです。その定めがないと民法の規定により年五分の割合による利息金しかとれません。
 第二に、示談の際いわゆる頭金をとることです。できたら、少なくとも頭金として、二分の一以上の金額をとり、残額を分割払いとすれば、万一の場合でも損害が少なくて済みますし、加害者側も、その支払期間を縮小できることになり、支払いやすくなります。
 第三は担保をつけることです。担保には人的担保と物的担保とがありますが、その両者をつけておけば一番確実です。すなわち、人的担保とは、加害者の近親者や資力のある人を連帯保証人につけることです。通常まずこれでだいたい確実ですが、本件のように特に高額で、しかも長期のときは、さらに物的担保として、加害者もしくは加害者のために物的担保を提供してくれる人の不動産に、抵当権を設定し登記をしておくことです。
 この場合、注意しなければならないことは、抵当物件が、損害金全額を支払うに足るだけの価値あるものでなければなりません。すでに多くの抵当権がつけられており、仮りに競売し ても、損害金の支払部分に競売金額が満たない場合には、せっかくの物的担保も絵に書いた餅になってしまいます。
 第四に、示談書は、公正証書か即決和解調書にしておくことです。そうすれば、支払不履行に際して、直ちに加害者の財産に対し、強制執行をすることが可能です。単なる私製の示談書ですと、強制執行のための前提条件である債務名義をとるために、加害者を相手方として裁判所に訴訟を提起しなければならず、無駄な費用と時間を費やす結果になります。

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