交通事故の損害額を確実に請求するための措置

加害者に対して、実際に損害賠償の請求をする場合に、その請求できる額については、いろいろと争いが多いのですが、確実にその額を請求するためには、どのようなことをしておけばよいのでしょうか。
 説明の便宜上、人身事故と物的事故の場合に分けて述べますが、両者を通じ、根本的に重要なことは、事故のために生じたいっさいの出費に対しては、必ずこれを証明する資料、たとえば領収証を保存するよう心がけることです。
 不幸にして被害者が死亡した場合は、被害者の相続人が、これから述べる役目を担当しなければなりません。
 まず人身事故の場合には、その被害の大小を問わず、いちおう医師の診断を受け、その診断書を保存することです。これが被害を直接に立証する証拠ということになるからです。
 また、頭部の打撲傷などは、事故当時はたいした傷とも思われなかったのに、後日になって、意外に、深部に傷痕を残したため、重症と判明することがあります。このときになって、損害賠償と騒いでも、そのときは、この傷が果たしてそのときの事故に原因したものかどうか、立証することが困難となってしまいます。

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診断書はできるだけ詳細に記載してもらうよう医師にとくに依頼すべきです。たとえば、数カ所に外傷を受けた場合などは、そのなかの一つだけ大きな傷を書いて「○○部骨折など」というように、ほかは「何々など」と片づけられないように注意してください。
 診断書は、ときには、単なる被害程度の立証のみならず、どういう状態で事故が起こったかを究明する資料にも役立つことがありますから。また、補償金などの請求のためには、保険会社の要求する診断書の書式がありますから、保険会社から該当の診断書用紙をもらってきて、これに記載してもらうことです。
 通院にしろ、入院にしろ、これに要する費用は、不必要と思われても細大もらさず記帳し、領収証は保存してください。
 死亡のばあいには、葬儀が完全に終わるまで、死者に関する出費について、同様の注意が必要となります。葬儀費用も賠償の対象となるからです。
 人身事故の場合には、たんにその傷をいやすための費用のみが賠償の対象となるわけではありません。そのほか、届書による精神的苦痛に対する賠償として慰謝料、また入院加療のために、健康なら当然得られたはずの利益の喪失に対する賠償も、損害として請求できるのです。したがって、これらの点の被害を、後日になって立証できるための資料の確保にも留意せねばなりません。
 たとえば、入院加療が苦痛きわめたものであれば、この情況を説明できる看護人の氏名、住所などを確認しておくことです。
 とくに傷害の場合は、これが長く被害者の後日の生活に影響することがあります。たとえば、女性の場合では顔面の傷痕、男女共通の問題として不具などがこれです。したがって、これらの傷害による精神的苦痛は、被害者にとっては想像もつかない大きなものとなります。したがって、賠償額も当然このことを考慮し決定されるべきですから、この点も請求にあたっては十分留意しなければなりません。
 だから、このようなおそれがある場合には、十分経過をみる意味で、軽そつな示談とか請求をしないよう注意してください。
 つぎは、物的事故、たとえば車を破損されたとか、家がこわされたとかいう場合です。人的事故の場合でも、当然、着衣、腕時計、靴などが損することが多いでしょう。これも物的損害ですから、物的事故の場合と同じように考えてよいでしょう。
 この場合の保存の対象は、いうまでもなく物の破損状況の正確な確認です。事故直後のままの状態で、損害賠償時までその物を保存できれば、これにこしたことはありません。しかし、これはいうべくしてのぞめないことでしょう。したがって、たいていは、破損状況を撮影して、その写真を後日の証拠に使用するのが普通です。
 事故状況の保存と同様に、この場合も警察が介入することによって、破損状況もかなり正確に保存されるはずですから、この面からも事故を警察に届け出るときは必要なわけです。ただ警察も少しばかりの被害では写真班まで同行してくれませんから、できれば被害状況の写真くらいは、被害者自身で撮影して確保しておくことです。また修理に要した費用の領収証などはすべて保存しておかねばなりません。これがちょうど、人的事故の場合の診断書にも匹敵する、物的事故の場合の被害の直接の立証資料になるわけです。したがってこの領収証も、その内訳の詳細を記載してもらっておく必要があります。車体修理の場合など、見積請求書にその詳細が記載してあるはずですから、これを領収証と共に保存すれば確かでしょう。
 よく、「証拠がなくなりはしないか」との疑問から、修理を放置している人がいますが、これは逆です。四、五日間で被害弁償が片づくのならこれも結構です。また、その品物を事故当時のままで保存維持できるのなら、それも前述したとおり、理想的な証拠保全です。しかし、損害賠償は多くの場合日時を要しますから、日がたって、賠償が片づかないからといって、あわてて修理に出したのでは、事故当時の正確な被害状況がわからなくなります。
 また、こんな場合、加害者のほうは、得たりと、「そんなに放置したからこそ、こんな高い修理代がかかったのだ」と反論するでしょう。だからどうせ修理するものなら、早目に修理に出し、破損状況は、写真とか修理費用の明細な領収証で立証するほうが賢明です。

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