示談が成立するとそのやり直しはできないか

私は、先日、タクシーに乗っていて、急ブレーキをかけられたために、前頭部や胸に全治一週間のケガをしました。事故のあった翌日に、タクシー会社の渉外孫のAがきて「すぐ一〇万円を払うから示談書に印を押してくれ」といっていますが、示談の効果はどういうものなのでしょうか。

 示談というのは、一ロにいうと、裁判を経ないでで事故の当事者の間で話をきめてしまうことです。法律のことばでいうと「和解契約」といわれます。この示談のいちばん大きな効果は、示談したことがらについては、原則として裁判ができなくなるということです。
 たとえば、事故にあって一〇万円で手をうって示談書を取りかわしてしまったが、どうもあとで考えて安すぎる、なんとかしたいということで、裁判を起こして二〇万円請求しても相手から「この件については和解契約ができている」といわれると裁判所は「和解契約ができているから前の一〇万円だけ払えばよい」という判決しかしてくれません。あなたが受けた損害が二〇万円であることが証明できてもダメなのです。これが示談の基本的な効果です。

スポンサーリンク

もっとも示談は後日絶対くつがえせないかというと、ごく限られた場合にはそれが可能なのですが、それは例外だと心得ておく必要があります。したがって示談は、事故についての最終案だということを肝に銘じて、それだけ慎重に案を練らなければいけないわけです。
 たとえば、交通事故につきものの後遺症の問題があります。いちおう現在の傷は治った、そのための損害が五〇万円だったとすると、後遺症を考えなければ五〇万円で示談するとすれば被害者としてはまず文句はないはずです。ところが、ひょっとすると一年後、二年後に後遺症かでるかもしれないという問題があります。
 この場合の解決案は二つあります。一つは、後遺症がでた場合は、そのときに、その損害について、加害者に改めて払ってもらうようにすることです。
 そしてもう一つは、後遺症の問題を現在一挙に解決し、多少なりとも現在の示談金を多くもらい、後日もし後遺症がでても、もはやなんの請求もしないということにし ておくという方法です。
 被害者としては前者の方法をとるのがいちばん安心できて得策です。しかし、加害者のほうはこういう解決を嫌うのが普通です。なにもかも一挙に解決したいのか加害者心理でしょう。したがって現実の処理としては、後者の方法によらざるを得ない場合もあると心得るべきです。
 しかし、その際には、信用のおける病院などで後遺症の有無について慎重に調べてもらい、まず大丈夫だという場合に限るべきでしょう。後遺症の可能性があるとすれば、見通しがつくまで示談を先にのばすのも一案でしょう。
 また、示談契約には「この事件については、被害者としては加害者を業務上過失致死傷罪では告訴をしない、つまり、加害者の処罰を望まない」という意思表示も含まれているものと解されていますから、後になって告訴をしても、警察や検察庁に受理してもらえないことになりますから、その点もよく考慮に入れておくことが必要です。
 いずれにせよ、示談は和解契約という「契約」の一つですから、契約書である示談書に盛られたことか当事者を拘束するわけです。したがって「もう話がついたのだから」という安易な気持で、相手がもってきた書類にろくに目をとおさないで印を押すという態度は避けるぺきですし、「こういう場合はこうしたい」ということがあれば、それを盛り込んで示談書を作るようにすべきだということです。

交通事故の被害者はどのような請求ができるか/ 傷害・物損事故の損害賠償請求/ 損害賠償を解決する方法/ 交通事故の解決方法を選ぶべきポイント/ 交通事故の被害者が事故現場でとる措置/ 交通事故の損害額を確実に請求するための措置/ 被害者が直接請求できないとき/ 損害賠償の交渉相手はどう決めるか/ 加害者が死亡したときの賠償請求は/ 賠償義務者が複数の場合の請求の相手は/ 賃借り車の事故の責任は誰にあるか/ 販売会社に車の所有権がある場合の責任/ 未成年者の事故の責任は誰にあるか/ 示談にはどのような効力があるか/ 示談と裁判ではどちらが有利になるか/ 交通事故の示談をする前にどのようなところを利用するか/ 交通事故の示談交渉時期はどう決めるか/ 交通事故の示談交渉前に必要な書類/ 交通事故の示談交渉中は強制保険はもらえないか/ 保険会社を示談交渉の相手とするときの心得/ 加害者が示談の交渉に応じないときは/ 示談の交渉を弁護士に頼みたいとき/ 後遺症の心配があるときの示談の進め方/ 刑事責任を示談交渉でどう利用するか/ 示談書を作成するときの注意/ 示談が成立するとそのやり直しはできないか/ 示談交渉が進展しないときはどうするか/ 示談の成立後に傷が再発したときの賠償請求は/ 示談屋や事故屋に騙されないコツ/ 示談屋が賠償金を渡してくれないとき/ 示談屋に渡したのに被害者から請求された/ 示談屋に騙されたときの告訴はどうするのか/ 調停や和解による解決の要点/ 調停や和解はどのような場合にするか/ 調停の呼出しを受けたらどうなるか/ 訴訟で損害賠償を請求するときの心構え/ 管轄裁判所と裁判手続き/ 賠償金を上手に取立てる訴訟のやり方/ 仮処分により賠償金の取立はできるか/ 訴訟費用がないときの賠償請求は/ 弁護士費用を相手に請求できないか/ 示談のときに確実に賠償金を取る方法/ 分割払いで賠償金を取るときの注意/ 示談後に会社が倒産したときの取立/ 行方不明の相手から取る方法/ 身元保証人から賠償金を取立てたい/ 強制執行で取立てるにはどうするか/ 強制執行にはどのような障害があるか/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク