仮処分により賠償金の取立はできるか

二か月ほど前に交通事故にあい、左足を骨折してしまいました。賠償金を請求してもなかなか話合いがつかず、いまだに一銭も支払ってくれません。事故にあって以来、入院していますが費用もかさみ、一家の大黒柱となっている私が休んでいる関係でどうにもなりません。聞くところによると判決を得る前でも仮処分として、入院費用などを払わせることもあるということですが、どんなものでしょうか。

 昭和三七年八月二四日、名古屋地裁は判決前の仮処分として、加害者に対し被害者の入院費用についてこれまでの滞納分を払い、これからの分も退院まで半月ごとに払っていけと命じました。

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被害者には、このまま加害者から賠償してもらえないと治療を受けられなくなってしまうという事情がありました。そのうえ傷は左足の骨折でしたが、入院してすでに八ヵ月にもなっているのに、まだ外傷の治療段階で接骨のほうまでは進んでおらず、相当長い期間の入院の継続を必要としていました。
 入院費用は、これまでの分が三〇万円ほどに上るところ、そのうち支払いの済んだのはわずか九万円ほどで、あとの二一万円ほどがとどこおりとなっていたのです。これからも退院まで、少なくとも半月ごとに、一万五千円を用意しなければならない状態でした。肝心の加害者は、事故の直後には治療代はいっさいみると約束して安心させておきながら、はじめの一か月半ぐらい実行しただけで支払ってくれません。それでは自分の力でといっても、金もなく国民保険の適用も受けられない被害者はなんのすべも持ち合わせなかったのです。あとは、訴訟のうえ判決をもらって加害者から賠償令を取り立てるほかはないが、それには長い期間がかかり、いま必要な治療に間に合いません。
 そこで、この急場をしのごうと、「仮の地位を定める仮処分」というものを申請したのです。これはすぐ審理に移され、申請したその日に、「加害者は、被害者に対し、仮りに、金二一六、三六〇円および昭和三七年八月一六日より被害者の退院まで、毎月一五日および一月末にそれぞれ全一五、〇〇〇円を支払え」と決定されました。
 この決定が出るとひきつづいて強制執行にはいっていくことができ、動産でも差し押えるとなれば一週間ほどで競売されて現金となりますから、仮処分の申請をして一〇日ぐらいすれば、さっそく治療費になるというわけです。ふつう、この決定が出ると、加害者のほうは、強制執行の手間をかけさせないでも、その支払いに応じるようになります。
 こうして、この仮処分に、被害者救済の特効薬となっています。このごろでは、ほかの裁判所でも出されているようです。この決定では、社会保険の適用がないことも考慮されているかもしれませんが、治療費はまずもって賠償義務者が負担すべきものであって、加害者が無資力であれば、そこではじめて社会保険という順序のものですから、たとえ保険が使える場合であっても、治療費さえも払わないような加害者に対するかぎり、どしどしこのような決定が出されるようになることでしょう。
 また、この仮処分は、治療代のほか、一家の大黒柱が負傷し家族が生活に困るようなときの休業補償相当分についても及ぼされるでしょう。
 しかし、加害者としては、仮処分の決定が出てからしぶしぶ払うようでは、弁償の誠意の問題として慰謝料の額にもひびき、同じ金を支払うのにもかかわらず損なことです。治療代ぐらいはその金額がはっきりしているのですから、自分の利益のためにも、最後まで確実に支払うよう心がけるべきでしょう。
 この仮処分は、東京地方裁判所でも活用され「被害者の窮状にかんがみて加害者は一〇日ごとに治療費を支払え」とされました。

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