加害者が死亡したときの賠償請求は

私はダンプの運転手ですが砂利運搬中反対方向から来た自家用車が、センターラインを越えて突進してきて、私の自動車と正面衝突をしました。その結果、私は物損の ほか、全治四ヵ月の重傷を負いました。私には全く過失はありません。ところが、自家用車の運転手は即死してしまい、損害賠償の請求に困っています。

 被害者であるあなたに過失がなく、相手方に賠償請求できる立場にあるのに、その相手方である加害者が死亡したときに、誰れに対して、どのように賠償請求すべきか の問題です。日本には昔から喧嘩両成敗ということがあります。これは両方の当事者にそれぞれ責任を認めて、一刀両断の解決による欠点を補うためにとられた妥協的処理方法だったのです。これがかえって当事者を仲直りさせる契機となることはよく知られており、大岡裁きの名判決とも言われることがあります。
 しかし、法律的には当事者それぞれについて別個にそれぞれの責任の有無を判定すべきであって、その結果、ほんとうに五分と五分の過失のあったときならば、両成敗の処理も考えられることです。けれども本問の場合には、相手方だけに過失があるのですから、正面衝突したことを理由に、このような不利な処理をされることはありません。

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本問の場合は賠償の全額を相手に請求できることはまちがいないのですが、その相手が死亡しているのです。一般に財産を残して死亡するのが相続であるかのように考えられているようですが、正確にいうと相続とは、死亡者の財産および借金の両方について、相続人がこれを受け継ぐことです。財産や借金として、はっきりしているものだけでなく、交通事故による加害者としての立場もそのまま、受け継がれるのです。したがってあなたは、その加害者の相続人を探して、賠償請求手続きをとることになります。したがって、加害者の方とすればそのような負担を相続したときどうするかという一般的な問題になるわけです。
 ではその具体的な賠償請求のやり方はどうなるかといいますと、まず加害者の相続人中、第一順位の相続人を探すことです。加害者の戸籍謄本か除籍謄本をとってみれば、誰がその相読人かはっきりします。
 民法の相続の規定によれば子供と配偶者が第一順位の相続人です。子供は何人いても、平等に相続人となります。腹違いの兄弟や、妾の子でも相続人です。ただ賠償請求の金額の割合は、それぞれの相続人の財産相続の割合と同じです。すなわち妻と子供二人が相続人ならば、妻に対してニ分の一子供に対しては、それぞれ四分の一の割合で請求しなければなりません。もし一〇〇万円の損害ならば、妻に対して五〇万円、子供に対してはそれぞれニ五万円宛の請求しかできないのです。一〇〇万円全額を妻にだけ請求することは許されません。
 ですから、一般の場合に比べて請求の手続きが煩雑になります。相続人の中には、資産のある者も、またない者もいます。その中で一番資力のある者を、また相続分の割合の多い者を選ぶべきです。そうなると、妻が最も適当な相手となります。
 一般的なことですが、相続をするか否かは、相続人の自由です。また財産だけを相続する方法もあるのです。父の交通事故の義務までは相続したくないというドライな子供もいるでしょう。
 そんなときは限定承認という制度があります。限定承認をされますと、結果的には死者の残した財産の限度でしか請求が満足されなくなります。相続放棄のときも同様です。こんなことを考えますと、死んだ加害者が資産を残して死亡したとき、並びに相続人個人に資産かあって、相続放棄や限定承認をしない通常の場合に、相続人に対する賠償請求が、最も効果があるということができます。
 このことは、逆にあなたが不幸にして死亡するような大事故の場合であったとすると、賠償請求の権利はあなたの相続人に移転しますから、加害者と同様の相続、並びに手続きが必要となります。すなわち、あ なたの相続人が損害賠償請求権を相続しますのであなたの相続人は相続分の割合に応じた分しか相手に請求できなくなります。また双方死亡したときには相続人と相続人の間で請求が行なわれることはいうまでもありません。 

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