示談にはどのような効力があるか
自動車事故によって人を死なせたり負傷させたりすると、自動車の運転者は、その一つの事故に対して、三つの方面からそれぞれ別個に責任を追及されます。
まず第一が民事責任です。運転者は、加害者として、被害者に対し、損害の賠償をしなければなりません。
つぎに刑事責任です。運転者は通常、業務上過失致死傷罪という犯罪に該当し、懲役か禁鋼、または罰金に処せられることになります。
第三が行政上の責任です。行政処分ともいいます。これは、管轄地の公安委員会が、運転免許の停止とか、取消しをするものです。
民事責任、つまり損害賠償の問題は、九〇パーセントくらいまで示談によって解決しています。純粋に裁判によって解決したものは、残りのわずかです。
示談というのは、損害賠償や慰謝料をいつ、いくら、どういう方法で支払うかについて、裁判によらないで、加害者と被害者とが話し合って決めることです。
争いをしている当事者がお互いに譲歩しあって、その間の争いをやめる約束のことを和解契約といいます。交通事故の当事者が、お互いに譲り合って、紛争を解決する示談の場合には、法律的には和解契約となります。
示談は話し合いで紛争を解決することですから、交通事故のときにかぎって行なわれるのではなく、土地や建物の紛争のときにも、金銭貸借の紛争のときにも行なわれます。
加害者と被害者とが示談するということは、損害賠償(民事責任)の問題を解決することですから、刑事責任や行政上の責任について示談することはできません。たとえ被害者が承知したからと言って、事故をなかったものにすることはできません。ただ、示談が成立していると、加害者は相当の金を支払って誠意を示したことになりますから、加害者に対する刑事処分は、示談していない場合に比べて軽くなることがあります。
いったん示談をすると、やり直すことはできません。
示談というのは、加害者が被害者に対して損害賠償として九〇〇万円なら九〇〇万円を支払うことを約束し、被害者はその金額の支払いを受けることで満足し、それ以上、加害者に損害賠償の請求をしないという約束です。
ですから、いったん成立すれば、被害者側は、示談後に損害が増加したからといって、加害者に追加請求をすることはできませんし、また加害者側も、被害者の実際の損害は示談した金額よリ少なかったからといって、示談金を減額することを請求できません。
お互いに、その示談によって事件に終止符を打つつもりで成立させたものです。一方の者が、自分の不注意によって、間違った内容の示談をしたからといって、示談をやり直すことはできません。では絶対やり直しができないのかというと、そうでもありません。
示談成立後に後遺症が発生したときは、被害者は示談金とは別に後遺症の分を追加して請求できます。また示談をしたときと比べ、被害者の容態が著しく変更した場合には、示談そのものが無効となることもあります。
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