後遺症の心配があるときの示談の進め方

私は、休日に友人の運転する車で、海ヘつりに行き、その帰りに、タクシーに追突され、むちうち症になりました。三ヵ月通院して、やっと治りました。タクシー会社 の事故係がきて、示談をしてくれといっています。示談をしてもよいのですが、示談したあと後遺症がでたときは、どうなるでしょうか。後遺症のでるおそれのあるときは、示談しない方がよいのでしょうか。

 いったん示談をすると、原則として示談はやり直すことはできません。
 示談というのは、加害者が被害者に対して損害賠償として一定額を支払うことを約束し、被害者側はその金額の支払いを受けることで満足し、それ以上、加害者に損害賠償の請求を一切しないという約束です。
 ですから、いったん示談が成立すれば、被害者側は、示談後に損害が増加したからといって加害者に追加請求はできませんし、また加害者側も、被害者の実際の損害は示談金より少なかったからといって、示談金の支払いを拒むことはできません。
 お互いに、その示談によって事件に終止符を打つつもりで成立させたのです。一方の者が、自分の不注意によって、間違った内容の示談を成立させてしまったからといって、そのつどやり直すことは適当ではありません。ですから示談は慎重にやらなければならないのです。

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ほとんどの示談書には、「今後本件に関しいかなる事態が起こりましても、双方決して異議の申立て、訴訟など一切しないことを確約致します」などと記載した条項が入っています。この条項のことを権利放棄条項といいます。これは、後になって被害者から損害賠償の追加請求をされるのを防止するためです。
 しかし、示談が成立した後に、後遺症が出た場合には、この後遺症についての損害賠償は別に請求できます。
 ただ示談書を作るときに、すでに被害者に後遺症がでていて、示談当事者もこれを知っていた場合には、その示談書は、後遺症も含めて作られたとされます。しかし、そのような場合以外は、いちおう後遺症の分は別と者えてよいでしょう。
 ですから、後遺症が出るかもしれないという場合であっても、示談のときに後遺症がでていないならば、示談書に後遺症のことが書いてなくとも大丈夫です。
 ただ、用心のために、示談書の最後に、「被害者において将来、後遺症が発生した場合は、それに対する損害賠償について、本示談書で定めた損害賠償金とは別に、加害者は被害者に支払うものとする」という条項を入れておいてください。こうしておくと、後遺症がでても安心です。
損害賠償請求権は三年を経過したとき、強制保険の保険金の請求権は二年を経過したとき、時効によって消滅します。
 では、事故から四年たって後遺症がでた場合はどうなるでしょうか。後遺症の損害賠償請求権は、後遺症がでてから三年(保険金の方は二年)間は時効になりません。時効のことを心配せずに請求できます。
 二五歳になる男性が交通事故によって一眼の視力が〇・六になったため、後遺症第一三級ということで後遺症の慰謝耕三四万円で示談したところ、その後悪化して一眼の視力が〇・一となったとします。これは後遺症第一〇級になります。そこで後遺症第一〇級の慰謝料一六一万円から、すでに受け取った五四万円を差し引き、差額一〇七万円を追加請求できることになります。

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