弁護士費用を相手に請求できないか
私はある運送会社のトラックにはねられ、全治一ヵ月のケガを受けました。相手方は損害金について少しも誠意をみせず、ただ口さきで支払う支払うというばかりで、少しもらちがあきません。そこで私は弁護士に依頼して裁判をしたいと思いますが、このような訴訟にかかる費用はすべて相手方から取れるでしょうか。
民事訴訟法八九条に「訴訟費用ハ敗訴ノ当事者ノ負担トス」と定められていますので、もしあなたが交通事故による損害賠償請求の訴訟を提起して、すべて認められれば訴訟費用は全額相手方の負担となります。また、あなたの請求の一部が負けますと、その割合に応じてその部分があなたの負担となるわけです。
そこで、それでは訴訟費用とは一体どういうものかを説明しておきます。これは一般の人か思い違いをしている点が多いように見受けますが、俗にいう弁護士費用は含まれていません。訴訟費用の範囲は民事訴訟費用法に規定されており、書記料、貼用印紙額、執行官手数料、証拠調べの費用など、すべて純粋な裁判手続費用に限定されます。ですから弁護士に依頼して支払う報酬などは当然には相手方に請求できないのです。
もし、やるとすれば別訴を起こして弁護士依頼によって支払った金額を請求するより方法はありません。
しかし、従来の判例は、一般に損害賠償というのは、ある事件が発生した場合に、通常起こりうる損害(相当因果関係)の範囲内に止まるのか原則で、ことに日本の民事訴訟法では、必ずしも弁護士に訴訟を委任することを要せず、自分でいわゆる本人訴訟を起こしてもよいことになっていますので、事故の発生と弁護士報酬の間には、相当因果関係がないというわけで否定的でした。
ただ従来から相手方がなんら訴訟に持ち込む原因がないのに、単なるいやがらせとか、なにか他意をもって不当に訴訟を起こし、そのためやむをえずこちらが受けて立つ場合には、相手方が訴訟を起こすこと自体が、不法行為となるわけで、この場合には不当応訴といって、弁護士費用を損害賠償として請求することができました。
だから金銭の貸借とか、物の売買で相手
方が容易に債務を履行しないため、裁判上でその請求をする場合には、弁護士費用は請求できないのが通常です。
しかし最近交通事故による損害賠償請求事件が非常に多くなると同時に、加害者の側は自動車損害賠償保障法三条によって、ほとんど無過失責任に近い賠償責任を負わされるようになったわけで、被害者の請求に対して、その支払いを不当に拒否するかして、裁判上の請求を余儀なくさせることがあると、そのこと自体一つの不法行為という性質を帯びます。
またそれ自体不法行為でなくとも、交通事故そのものと因果関係があると解釈される傾向にあります。
昭和三八年ごろの東京地方裁判所判決以来、従来の訴訟で簡単には認められなかった弁護士費用の請求が、交通事故による損害賠償請求事件では他の損害と併せて認められるようになりました。
しかし、その認められる費用の範囲は、必ずしも弁護士に現実に支払った金額のすべてというわけにはいきません。事案の難易、請求額、認容額などを考慮して相当な金額が認められることになりますが、平均的にいってみれば、判決によって認められた損害賠償金の一割前後が基準とされているようです。また弁護士にすでに費用を支払ったか否かは必要でなく、契約上支払義務を負担していることが明らかであればよいのです。
なお現在交通事故にかぎらずすべての訴訟について、敗訴者に相手方の弁護士費用を負担させようという立法気運がありますが、これはやたらに訴訟をしている者を防ぐという目的をもつものです。
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