示談の成立後に傷が再発したときの賠償請求は
私は半年前に交通事故に会い、右脚骨折などで一ヵ月ほど入院し、その折五〇万円で示談しました。その後、今日まで普通人と変わらず私もなんの自覚症状もなかったのですが、最近腰部に鈍痛を感ずるので、専門医にみてもらったところ、事故のとき受けた腰部の打撲が原因で、腰椎が化膿してきているから、一ヵ月ぐらいまた入院加療しなければいけないといわれました。この入院治療費を加害者に請求できるでしょうか。
これは前に取り加わした示談書がどうなっているかをまず見てみなければいけません。前に示談したとき、今のような問題がでてきたときには、改めてその問題について示談するというような話合いができていれば問題ありません。それなら堂々と請求ができます。しかし、おそらく示談当時はこんな後遺症がまた出ようなどとはおたがい想像しなかったことでしょう。その場合はむずかしい問題になります。
一般の示談書には、おうおうにして「本件事故に関しては、今後名目のいかんにかかわらず、当事者双方はなんらの請求をしないこと」といういわゆる常とう文句がはいります。
これは、この事故についてはこれが最終解決案だということを示しています。したがって、形式的にいうと、後からまた損害がでてきたからといって請求できないということになります。
しかし、これを杓子定規に貢ぬくと、あまりにも一方に醍な結果になることがあるわけです。そこでなんとか前の示談は無効だというみちはないのかということが問題になってきます。
これについては、示談がどのような事情の下で結ばれたか、どのようなことで示談が前提となり、または重要な要素とされたか、示談額と実際の損害額との問に著しい不均衡が生じたかなどの諸要素をもとにして判断し、実質的にみて著しく不公平であれば、示談の拘束力はそこまで及ばないと考えるべきでしょう。
この救済策として、いくつかの理由づけが考えられますが、判決の中でも、いくつかの方法がとられています。
たとえば、例文解釈、示談の効力がそのような新しい事態の発生によって効力を失うとする方法、法律行為の要素に錯誤があったとして示談を無効とみる方法、信義則もしくは公序良俗違反により無効とみる方法など、それぞれのケースに応じて、理論構成されるべきですが、このうち、錯誤を主張する方法とは、つまり、思いちがいということです。
こういう事態が生ずるなら当時自分はあのような示談はしなかった、こんな事態にならないと思ったからああいう示談に応じたのだと主張するわけです。
示談の前提に錯誤があれば、示談は無効だといえます。しかし、少しでも錯誤があればみんな示談は無効だというのでは、今度は相手がたまりません。
相手は、これか最終解決案だと思っているのですからそれも尊重してやらなければなりません。
そこで法律は、錯誤のために示談を無効にするには制限を設けています。
本問の場合でいうと、まず第二に、前の示談書の文句はさておき、実際間題として、相手のほうでも、あなたがもうこれ以上悪いところはでないと思っているから示談したのだということがわかっていなければいけません。それは暗黙の了解でも結構です。
後日後遺症かでてもいっさい文句をいわない、ということが名実ともにはっきりしていては救いようがありません。
第二にあなたがそういう余病なり後遺症がでないと思ったことに重大な過失があってはいけません。当時簡単に予測できたのに、大丈夫だろうということで、もうこれで終わりにしようと安易に示談したのなら救済されないということです。もっとも病気は医者任せですから、医者にきいて大丈夫だといわれたので示談したというのであれば、重過失ということはあり得ないでしょう。
そして第三に、その錯誤が重要なものでなければいけません。あなたの場合、また一か月も入院しなければならないというのですから、治療費も相当かかるでしょうし、錯誤は重要なものだといえるでしょう。だれが考えても、こんなことならあのような示談はしなかったという事情があることこそ、錯誤が重要なものだといわしめるポイントです。
結局あなたの場合、第一の点がいちばん問題になります。相手があなたの示談当時の気持を察していた事情があれば、前の示談を無効にして、改めて全損害を要求する余地がでてくるということです。
最後に、示談をするについて相手にだまされてしまったとか、あるいはおどかされて印を押したというときには、そういう示談は取り消せます。
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