示談後に会社が倒産したときの取立

父は、昨年、横断歩道を歩行中、社用で銀行へ行く自動車に突っ込まれ亡くなりました。運転をしていた社員のBは、無免許で度々社用にその自動車を利用していたということです。A社では損害金の支払いについて、示談を申し込んできましたが、支払いを受ける前に、取引先の倒産の影響を受けてA社も倒産してしまいました。A社には私に対する損害金を支払う能力は、もはやありませんが、A社の社長個人は資産家ですので社長個人に対して、賠償金支払いの請求をしようとか思うのですが、法律上認められるでしょうか。

 最近の自動車事故による損害賠償請求事件には、事故を起こした運転手と、その運転手を雇っている会社のほか、その会社の役員や監督者である幹部などか相手方とする訴訟が多くなってきています。
 それは、本問のように加害会社が倒産してしまったり、倒産にはいたらなくとも、事実上、倒産状態と変わることのないような会社が多く存在しているのに対し、代表取締役などの会社役員幹部は、比較的資産家が多いため、会社のみを相手にしたのでは得られない被害者の損害を救済するために考え出されたものです。
 そこで、A社の社長個人に対するような請求は、何を根拠として認められるのか説明しましょう。

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民法七一五条二項には同条二項の「或事業のために他人を使用する者は、被用者が其事業の執行につき第三者に加えたる損害 を賠償する責に任ず。但し、使用者が被用者の選任及び事業の監督に付き、相当の注意を為したときまた相当の注意を為すも損害が生ずるときには此限に在らず」という規定について「使用者に代わりて事業を監督する者もまた前項の責に任ず」と規定していますので、この規定により被用者が第三者に与えた損害について会社とは別に会社の役員幹部個人も賠償親任を負わざるを得ないのです。
 すなわちち、民法七一五条は、使用者と使用者に代わって事業を監督する者、いわゆる代理監督者の双方に使用者責任を認めているのです。
 ところで、代理監督者とは、通常は、事実上、使用者に代わって、被用者の選任、監督のどちらか一方または両方をなす者とされています。しかし、いかなる者が代理監督にあたるかは、実際上、必ずしも容易な問題ではありません。
 本問の場合はA社の社長に対する請求ですが、一般に社長はその会社の代表取締役になっていますから代表取締役が代理監督者と認められるか否か、という問題になります。古い判例では、代表機関は常に代理監督者としての責任を負うとされていましたが、近年の判例は、単に代表機関であるというだけでは、代理監督者とは認めず、その代表者が、実際に、あるいは具体的に、使用者に代わって被用者の事業執行を監督していたか否かを基準にして判断しているのが、一般的な考えのようです。
 したがって本問の場合も、A社の社長 が実際に被用者、すなわちBの事業執行を監督していたかどうかということになります。A社の規模がどの程度か明らかではありませんが、中小企業の小の部類に属するのではないかと思われますので、そのような会社では社長自らが被用者の監督にあたるのが一般ですから、A社の社長は代理監督者として会社と共に使用者責任を負わされることになります。
 つぎの事例は実際あったものですが、非常に参考になると思います。堺市のバス停の模断歩道を渡っていた小学生四名に、無免許運転のトラックが突っ込み、少女に重傷を負わせた事件です。被害者は、会社のほかに、社長と専務取締役に対して「会社の全従業員を監督統率する義務があり、単なる事務員であって運転手でなく免許も有しないのに、それを知りながら、会社の用務を命じ自動車を使用することを黙過した」という理由で訴訟を起こし、加害者側は、「被用者の選任監督につき相当の注意を払っていた」という主張で争いましたが、裁判所は、「車や鍵の管理のズサンさを指摘した上、監督不行届として」会社のほかに、社長と専務取締役に対し損害賠償支払義務について、連帯責任を認めました。本問の場合も、会社は倒産しましたが幸いにも社長が資産家ということですから、こうむった損害は、社長個人の資産から填補してもらえるでしょう。

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