管轄裁判所と裁判手続き
私は雑貨商を営んでいる者ですが、自動車事故にあい、ひどい損害を受けました。その運転手は同じ地域に住んでいることでもあり、内密に損害額をきめる交渉を進めていたのですが、なかなか応じてくれません。話合いにもほとほと嫌気がさしてきましたので、この際、訴訟を起こしたいと思っています。どこに訴えたらよいのか、また裁判はどのように進められるのでしょうか。
まず原告(被害者)の住所、被告(加害者)の住所(加害者が法人のときは主たる事務所、営業所)、事故発生地のいずれかを管轄する裁判所で、請求金額が三〇万円以下なら簡易裁判所、三〇万円を越えるときは地方裁判所が、訴を受け付ける裁判所になります。
そして訴訟を提起するには、「訴状」を、裁判所用一通と相手方の数だけ作成して、このうちの一通に所定額の印紙をはって、裁判所へ提出するのです。
訴状には、原告、被告の氏名、住所、請求の趣旨、原因を具体的に記載しなければなりません。とくに請求の原因は大切ですから、つぎに示す訴状の例をよく研究してください。
裁判、とくに民事裁判は、長くかかるのが常識のようにいわれています。たしかに、このごとは事実で、そのために、なんとか訴訟を促進しようと、関係者で真剣にその対策が考慮され、実際に進められてもいます。たとえば、東京地裁では現に交通事故を専門的に取り扱う部が新設されて、事件の進行を促進すべく努力しています。
しかしなにぶん、激増する事件数と裁判官不足は、かならずしも一般の希望に十分こたえていないことは事実です。
これまでの現実の交通事故関係の事件処理日数の平均も、一審だけで二年くらいを要しています。
では、現実に、裁判手続きは、どのよう
に進められるか、そのあらましを説明してみましょう。
(1) 訴状 - を裁判所に提出しますと、約一か月くらいの間に、第一回の口頭弁論期日(法廷で裁判手続きをする日)が決まり裁判所から呼出状がきます。その期日は、呼出状がきた日から半月ないし一か月くらい先になりますから、結局、訴状を出してから、第一回の裁判手続きの日まで、一か月半ないし、二か月くらいかかるわけです。
(2) 口頭弁論期日 - に、指定された法廷に行きますと、相手方から、こちらの訴状に対する反論書(答弁書)が提出されます。そして裁判官の指揮で、双方の言い分のどこに争点があるかが、まず確定されることになります。これが一回の口頭弁論期日
に全部済めばよいのですが、ちょっとややっこしい事件になると、争点を法的に適格に決めること自体がなかなかめんどうで、二回、三回と回を重ねることになります。
(3) 証拠調べ - このようにして争点が決まると、つぎに、その争点について、双方から自分たちの主張を理由づける証拠の申請がなされます。たとえば、現場の目撃証人であったり、現場の検証であったり、損害の立証のための診断書とか領収書とかいう書証の提出であったりします。そして証拠調べや現場検証のための期日が決められ、その日に、それぞれ証人尋問、現場検証がなされます。だいたい、一つの期日からつぎの期日までの間が、一か月ないし二か月くらいおかれますから、期日を一〇回開くとすれば、もうそれで一年くらい経ってしまうことになります。
(4) 判決 - このように裁判が進められてゆく間に、一方の当事者が、自分の主張を通すことが困難な場合は、ほぼわかってきますので、途中で示談になったり、調停に回してもらって話合いをつけることも多くあります。また裁判官のほうから和解を勧告することもあります。しかし、どうしても双方が譲らなければ裁判(判決)により黒白をつけることになります。ただ、損害賠償のような性質の事件ですと、多くの場合、原告(被害者)の請求額そのままが全面的に認められるわけではなく、減額された判決になる場合が普通です。判決は、いっさいの証拠調べが終わった後、二、三か月くらい先になされるのが普通です。
(5) 上訴 - 一審の判決に不服があれば、敗訴した当事者は、高等裁判所(一審が簡易裁判所ぐあれば地方裁判所)へ上訴(控訴)できますし、二審判決にも不服があれば、さらに最高裁判所へ不服申立て(上告)をすることもできます。
二審、とくに三審となると一審の場合より、より多くの時間を要します。また、上告審は、民事の裁判では、憲法とか法例に違背のないかぎり受けつけません。
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