損害賠償の交渉相手はどう決めるか
交通事故にあい損害賠償の請求をしたいのですが、相手の車の運転手は一九才の未成年で会社の車の運転手として働いており、車はその勤め先の会社が使っているのですが、車の名義は自動車の販売会社のものになっています。誰れに請求して良いもなのでしょうか。
自動車損害賠償保障法三条は「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したるときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しています。生命または身体を害したということですからいわゆる人身事故の損害にこの条文は根処決条となるわけですが、物件事故の方は民法七一五条の「或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者力其事業ノ執行二付キ第三者二加ヘタル損害ヲ賠償スル責二任ス」を根拠として請求することになります。この場合は人身も物件も請求できるわけです。
以上が運行供用者または使用者責任と呼ばれるもので、損害賠償の請求を誰れに対してするかの重要なポイントになります。
運転者の責任は民法七〇九条の「故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之二因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責二任ス」という条文により成年、未成年、運転資格の有無に関係なく人身、物件とも請求の相手方になります。
問題はそれ以外に誰れに対して請求できるかですが、前述のように運行供用者または使用者に対しても請求できるわけです。
それではどういう場合が運転共用者になるかということになりますが、これは車両の所有者と一致する場合が多いことは事実ですが、理論的には同一であるとは言えません。
自動車を動かすことに対して、これを、運行利益と運行支配権との二要素に分析して、これが誰れに帰属するかを判断して、この二要素の帰属する者が運行供用者だと言えるのです。
たいへん専門的なことで理解しにくいと思いますが、車を誰れが動かす権限を持ち、動かすことによって生じる利益が、誰れのところへいくのかという風にでも考えていただく他ないと思います。
本問の場合、運転手の勤め先の会社が運行作用者であることは明白です。また物件に関しても自動車の運行が「其事業ノ執行ニ」当たる場合であれば、使用者責任を問うことはできます。事業の執行に当たるか否かの解釈は、被害者保護の立場から、近年たいへん広く解釈されていて極端な言い方をすれば、盗難車以外の場合はほとんど使用者責任を問われると冗談を言うくらいになっていますので、たいていの場合は請求の相手方となると考えてよいでしょう。
つぎに車両の名義人と責任の問題になりますが、純粋な名義貸しの場合は、名義人に責任がないということになります。前述のようにこの場合は運行利益も帰属せず運行支配権もないからです。この点に関してよく問題になるのは、自動車の販売会社が月賦で車を売り、月賦金の支払いが完了するまで名義を移転しないで残しておく場合、販売会社に責任があるかということです。現行判例では責任がないということになっています。
車を人に貸している間の事故に関しては多くの場合が責任を負わされています。
私用特出禁示の会社の車両を私用に使っていた場合、休み時間中の会社の車両の運転、勤務時間終了後の会社の車の私用運転等についても会社の責任を認めています。
結局本問では運転者とその勤め先の会社を相手方とすることになります。
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