複数の車が人をはねたときの責任関係
A社の車が交差点に進入するや、Bの自動車が一時停止の標識を無視して交差点に進行したため衝突し、その結果、Bの自動車が歩行者をはねて負傷させました。被害
者の治療は予想外に長引き、損害が拡大し、財力の豊かなA社に全部の損害を支払うよう求めています。A社に、全部の損害を支払う義務があるでしょうか。また、仮にA社が全部を支払った場合に、Bに対して、いくら請求できるのでしょうか。
この場合、まず、(1)A社が、Bの車で怪我をした歩行者に対する損害賠償責任を負担するか(共同不法行為になるかどうか)。つぎに、(2)負担するとすれば、損害の全部か一部か。(3)A社が彼害者に全部支払った場合には、Bに対し、請求できる部分はいくらかの三点にあると思われます。
第一点については、一般に民法上不法行為が成立するためには、複数の人の行為かそれぞれに独立し、しかも不法行為の要件を備え、その間に客観的な関連共同性をもっていることが必要であると説かれています。その意味で、加害者相互間の主観的な共同意思は必要ではなく、過失の共同ももちろん共同不法行為を構成します。
本問の事例では、Bが交差点における一時停止の標識を無視したということですが、そのことによって、ただちにA社の車に過失が無いこととなるわけではありません。道路の幅員、交差点における見通し状況など、いろいろ事故直前の条件を検討しますが、A社の車にも交差点における徐行義務違反、左右安全確認義務違反を認められることが多く、その過失割合の比は、一時停止の標識違反の加客車と他の進入車との場合、八対二くらいとして取り扱われています。
そうすると、A社とBは、歩行者に対し共同不法行為か成り立ち、共同不法行為が成立しますと、法律上いずれも連帯して被害者の全部の損害を支払う義務を負担しなければなりません。
第二点については、これでお解かりのように、たとえA社の過失がBより軽微であっても、その全部の損害を支払う義務を負担します。
さて、第三点。被害者の損害の全部を支払ったA社がBに対していくら請求できるかという問題については、共同不法行為者の負担部分の割合として、議論が分かれているところです。
共同不法行為者の債務の性質については、連帯債務とする学説と、不真正連帯債務とする学説があります。連帯債務ならば求償関係が生ずるけれども、不真正連帯債務としますと、とくに法律の定めかなければ、求償できないということになってしまいます。また、連帯債務説ですと、原則として負担部分は平等、したがってA社とBが五〇パーセントずつ負担することになります。
しかしながら、最近、不真正連帯債務と解しながらも、求償を基礎づける別個の法律関係の有無にかかわらず求償を認める考えが有力になっています。
判例には、被用者Bと第三者Cとの共同不法行為による損害賠償貴任を果たした使用者AかCに求償した事実について、Cの負担部分はCとBの過失割合で定められるべきであると判示したものがあります。
本問の場合にも、BとA社運転手の過失割合の比に按分し、A社の支払額のうち八〇パーセントをBに請求するのが妥当と考えます。
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