追突事故では過失割合はどう認定されるか
私は制限速度内の時速四〇キロメートルのスピードで国道を会社に向かって進行していました。朝の八時頃だったために車が混雑していて、前車の乗用車に五メートルの間隔をおいて、続いていたのです。ところか突然、前車がなんの合図もせず急停車したため、私もすぐ急ブレーキをかけたのですが、間に合わず追突してしまいました。前車の人はムチウチ症になったといって全額損害賠償の請求をしてきました。急停車をした事情を後で聞いてみますと、道を間違えてUターンするために急停車したということです。こんな場合でも私は相手の人に損害の全部を支払わなくてはならないのでしょうか。
普通、追突事故の場合には、追突された車の方は、過失がないと考えられています。そのわけは、車を運転している場合、進路を変更するとか、右折、左折するとか、Uターンする以外は、原則として、後続車に対してなんらかの合図をして注意を促す必要はないわけです。
それは、危険を避けるため、やむを得ず急停車をしなければならないときに、いちいち後続車のことを気にしていたのでは一瞬のうちに急停車ができなくなって、危険を回避することが不可能になるからです。
そのため後続車は、前車に急停車されても衝突しないように、速度に見合って車間距離を保って運転するよう義務づけられています。
一般に追突は、前方をよく見ていなかったとか、ブレーキ操作の誤りとか、車間距離を守らなかったために起こるものですから、追突した方に全面的に過失があって、追突された方は、全然過失がないとされていました。
しかし、現在のように自動車が増加し、道路状況の混乱がさけられない実情では、前車がなんの理由もなく、あるいは自からの都合で勝手に急停車するのは、事故の多発する大きな原因ともなっているのです。
したがって、このような場合に急停車することは許されないとの考え方が、従前からありまして、道交法の改正によって、その趣旨をとりいれ、「自動車の運転手は、危険を回避するために止かを得ず急停車する場合を除いて、急ブレーキをかけろことを禁止された」のです。
そこで、本問の場合の検討にはいりますが、前車は危険を防止するため急停車したわけでもなく、ただUターンするため急停車したということで、しかもUターンする場合には、あらかじめ左折の合図をしなければならない義務があります。この義務を怠ったったのですから、前車の過失は十分考慮しなければならないでしょう。その過失の程度は二〇パーセントぐらいと思います。判例の中に違法な原因で急停車した場合に前車に一〇パーセント程度の過失を斟酌したものがあります。
なお、衝突の型は追突にみえても、その直前の行動が「割りこみ」という場合があります。
よく車間距離を保って走っていると、すぐ目の前に割りこんで来て、急ブレーキをかけて追突を防いだなどという不愉快の思いをすることがよくあります。
このように急に割りこんできたため追突をしたというような場合には、追突した方は、なんらの過失を問われることなく、割こみ車に一〇〇パーセントの過失があるとされています。
割りこみを許すと車間距離が、たもてなくなって事故が多発する原因ともなりますのできびしく処罰しようとする趣旨から出ているのです。
追突事故で乗客がケガをした事件で面白い判例があります。それはタクシーの乗客ですが追突されたためムチウチ症になったとして損害賠償を求めて来たケースで、後部座席に座っていた被害者にも、すわり方が悪い点に過失かおるとして一〇パーセント程度の過失相殺を適用したものです。
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