運行供用者の交通事故の責任

運行供用者とは、どういう人のことをいうかといいますと、原則として自動車の所有者、共同所有者、長期の借主を指します。
 親会社の指揮命令が強く影響している下請会社の自動車に対しても、親会社が運行供用者であるとされ、あるいは従業員個人の自動車を雇主が、時々仕事のために利用させてもらったり、ガソリン代を一部負担しているような場合、雇主も運行供用者であるとされます。
 ドライブクラブの貸出し自動車について運行供用者であるかどうか判断がわかれていました。最初、最高裁判所は運行供用者ではないとしていましたが、その後、運行供用者であると判例を変更し、これについて最近はあまり争いはないようです。運行供用者であるかないかの判断基準は何かといいますと、自動車に対し運行の支配があり、しかも自動車を運行することによって利益を得ているものが運行供用者の地位にあたるものといわれています。最近では、両方の要件の充足よりも、運行の支配の方に重点をおいているようです。
 ただここで注意しなければならないのは、この自賠法が適用されるのは、すべての交通事故についてではなく、人身事故だけに限られます。車幅の破損、商品の毀損のような物損事故の場合は、民法の一般原則にもとづかなければこの請求は認められません。また運転手個人に請求する場合も自賠法の適用は受けられず物損事故と同じように民法の一般原則によらなければなりません。

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運転手が会社の従業員である場合に、この雇主は社長でなく会社です。通常は個人は賠償責任の対象にはならないのですが、社長または支店長などの個人についても、自動車の運行に関して指揮、監督している事情があれば、会社の代理監督者ということで、それらの個人が賠償責任を負う場合があります。この代理監督者に対する責任追求という制度の利点は会社が小さな規模で賠償負担能力がない、あるいは会社が倒産してしまったが、会社の社長個人は莫大な資産を持っているという事例はよくある例でしょう。このような場合に社長等の個人の責任を追求することによって、被害者の賠償が確保されることになります。
 交通事故には、被害者にもなんらかの過失がある場合が多いのです。たとえば、交差点で出会い頭の衝突を想定しましょう。同じくらいの道路幅で、信号も一時停止の標識もなかったとします。各自動車がお互いに徐行しないで事故が起き、一方の運転手が怪我をしたとします。この場合の両方の運転手の過失割合は、左方車優先の規定がある関係で左方車4、右方車6という過失割合でしょう。
 そこで怪我をした運転手が右方車であれば、怪我によって蒙った総損害額の四割程度しか相手の車輛の所有者に請求できないことになります。この損害額の減額方法を過失相殺といって公平の原則からの発想です。
 ところが、この衝突が自動車と自転者であった場合には、自転車に乗っていた人の過失割合は、自動車同志の割合よりも少なくなって、その分だけ自助車の方が多くなります。これは自動車と自転車という優劣関係から見て強者の方はより多くの賠償額を負担するのが公平の原則にかなうのだとの見地からです。これを優者負担の原則といいます。
 歩行者と自動車の場合、歩行者の飛び出しであっても、歩行者に有利に取り扱われるわけです。自動車同志の場合でも大型トラックと乗用車の間ではこの適用を受けるとされています。
 歩行者保護、歩行者優先の声が強く聞かれる今日、過失割合のうえでもこの趣旨にそって深い配慮がなされているわけです。

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