交通事故で財産上の損害を与えたときはどうなるか
私は営業用のトラックを運転していて、スピードの出しすぎからカープをきりそこない、ある商店のウインドケースを壊してしまいました。このように、私の過失によって、相手方の店とか商品をこわしたようなときの損害はどのように算定するのでしょうか。
トラックの暴走によって、他人の店(建物)や、商店内の設置商品などをこわすなどして、他人に財産上の損害を与えた者は、これによって被害者に生じた損害を賠償する義務があります。その額は通常、こわした物の価格(こわした時を基準にして算定するのが原則)の範囲内であって、具体的には、物の修繕が可能であれば修繕費用に相当する額、また修繕不能であれば価値の減少した分に相当する額ということになります。
また、店をこわされ、あるいは、商品が駄目になって、しかたなく何日も店を休まなければならなくなったとすれば、その間
の営業利益を失いますから、これについても賠償の義務が生じます。
このように、加害者はトラックの暴走という不法行為によって相手方に生じた損害を賠償する義務があるのですが、つぎのような特別の損害賠償義務を認めた判例もありますから紹介しましょう。
甲タクシー会社のA運転手は深夜飲酒の上、乗客Bを乗せてタクシーを運転し、酔いのため操縦を誤って、道路に面した乙商店に自分の運転する自動車を突入させた。その結果、乙商店の店舗はメチャメチャになり、柱が二本折れ大音響とともに二階の床は三〇センチも下がり、寝ていた乙商店主の家族はびっくり仰天、老母などはショックで二週間も寝込む始末であった。
A運転手は飲酒して自動車を運転し、その結果、このような事故を起こしたのであるから、過失のあることは疑いがない。
また、雇い主である甲会社も、大切な人命を預かるタクシー営業を営んでいるのであるから、使用人の運転手か酒を飲んで運転するような状態ではその選任監督に過失があったと思われてもやむを得ない。
そこで、Aおよび甲会社は、ともに乙商店に対して、生じて損害を賠償する義務がある。
ところで、乙商店の店舗二階に寝ていた家族には怪我がなかったから、自動車損害賠償保障法の適用はないが、深夜熟睡中にこのように重大な過失によって店舗に自動車を激突させられ、大音響とともに寝ていた二階の床が三〇センチも下がり、家族一同びっくり仰天し、年老いた商店主の母親はショックで病気になってしまったほどであるから、乙商店主としては住居の平安を
侵害されることはなはだしいものがあるといわねばならず、精神的に重大な損害をこうむった。そしてこのような場合に、物的損害のほかにこの苦痛に対する慰謝料の請求ができるかどうかが問題となった。
裁判所は、Aおよび甲会社に対し、民法七〇九条および七一五条の不法行為責任を認め、乙商店の店舗の損害、商品、商品ケースなどの損害の合計金三九万二五〇円の支払いを命じたのはもちろんであるが、このほか、このような事故は通常ありふれたものでないことや深夜熟睡中の事故であることから住居の平安を害したものであると判断し、慰謝料二〇万円の支払いを命じました。
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