死亡事故、物損事故の場合の損害額の算出

被害者が死亡すると、死亡者本人か相手方に損害賠償の請求ができないことは明らかでしょう。誰が請求するかといえば、この被害者の相続人が相続分に応じて相続して、相手方に損害賠償の請求をすることになります。相続人は民法によって定まっています。
 死亡者か、事故後しばらく生存していて、入院および治療費の支払いをしていれば、これらの費用は、損害として遺族によって加害者に当然請求できます。
 葬式費用が損害として請求できることについては、現在ではあまり異論はありません。しかし、死亡者の生前の社会的地位や、社会環境からみて不当に高額の支出をした場合、このすべての額が認められるかどうか問題のあるところです。仏壇購入の費用や、墓石を建立した費用については、以前は、死亡者本人のためだけでなく、家族のためにも利用できるものでもあるし、価値として、永久に残るものですから、損害として認めるべきではないとの考え方もありましたが、最近は、その一部について認める考え方が有力となっているようです。

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死亡者が将来生きていれば、稼げたであろう収入総額が、死亡によって失われたのですから、まさにそれが損害です。この損害が逸失利益といわれるもので、この総額が民法の相続分にしたがって遺族に相続され、遺族が加害者に請求するという構成をとります。
 この逸失利益の相続という構成に対して、遺族が被害者から生前、扶養されていたが、被害者の死亡によって遺族のもっていた扶養を受ける権利が失われたわけです。この失った権利を損害と見る考え方で扶養請求権侵害説といわれます。
 この説によりますと、幼児の将来の逸失利益を、年長の両親が相続するという不合理も解消しますし、高額所得者の場合でも、普通の所得者の場合でも、加害者の損害賠償の支払額に、極端な差が生じないことになります。しかしこの考え方は、まだ一般には受け入れられていません。
 この逸失私益の計算は、被害者の生前の収入額を基礎とし、そこから生活費を控除した額に将来働けたであろう期間をかけて、中間利息を控除して算出します。
 生活費については、収入の五〇パーセントとか四〇パーセントとかに見積もるのが簡単な方法です。
 幼児とか主婦の無職者の場合には生前の収入は考えられませんので、統計資料を用いて算出するしかありません。
 死亡の場合の慰謝料について、死亡者が数カ月生存していたような場合には、この間の慰謝料は死亡者自身に発生しているわけです。しかし死亡ということ自体に対する慰謝料が死者そのものに発生すると考えられるのか、また発生してもその慰謝料は相続人に相続されるのかという問題があります。
 最高裁はこの問題について、死者自身に慰謝料が発生し、相続されるものとしていますが、東京地裁などの下級審では慰謝料は、相続の対象にされない遺族は被相続人の死亡によって彼らが精神的苦痛を受けたのだから、相続ではなく固有の慰謝料請求権があるとしています。
 ところで、慰謝料額については、死亡者一人について、総額いくらと基準を設けていて、遺族が何人いようと総額は変わらないとする考え方が普通ですから、慰謝料の相続を認めるか、どうかによって、実際この差はあまりないようです。
 車が中破もしくは大破した場合、修理かできるときは、修理代が損害、修理ができないときは、時価額が損害となります。その他、トラック、タクシーなどの営業者が修理期間中、運転できないために、収益をあげれなくなれば、この収入額が損害として評価されます。これを休車補償といいます。
 また、第三者から車を借りた場合にはその借上料を損害として請求できます。
 自動車事故によって会社の社長か特殊技術者が怪我または死亡したため、会社の売上げが減った場合に、これを損害として加害者に負担させることができるかどうか、むずかしい問題です。
 自動車事故の被害者が会社を休んだことと会社の売上げが減少したこととの間に相当因果関係があれば賠償を認めようとする考え方と、被害者と会社との間で経済的に同一とみなされ財布を共通するような小企業の場合しか認められないとの二つの考え方があります。判例では個人企業とみなされるような小さな会社の場合のみ二、三件認めています。

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