過失相殺とはどのようなことをいうのか
事故の被害者が損害賠償を請求したら、過失相殺のために減額されたということでが、この過失相殺というのは、いったいどういうことなのでしょうか。
具体的に交通事故のケースをあげてみます。A車(乗用車)とB車(貨物自動車)とが、信号機のない交差点で衝突しました。両方の道路の幅は、ほぼ同じくらいですが、A車の道路には、一時停止の標識が設置してあります。A車は時速四〇キロメートルの速度、B車は時速三〇キロメートルの速度で交差点に進入したことが、衝突の主な原因です。
この衝突についての雨車輪の過失をみてみますと、A車の道路には、一時停止の標識が役置されているのですから、交差点に進入するに際しては、一時停止をし、その上見通しの悪いところでもあるのですから徐行して進行しなければならない義務が課せられていますので、Aの過失はそれらに違反した点に求められます。
一方、B車の方も、交差点を通過するときは、徐行しなければならない義務があるのに漫然と進行してしまった点に過失があります。したがってこの衝突は、A車の過失とB車の過失が重なりあって起きたものです。
この衝突でA車のドライバーがケガをし、自動車の修理代を含めた全部の損害をBが賠償しなければならないとしますと、A自身も衝突の原因を与えているのですから、不合理な結論を招くことになりましょう。そこで、過失相殺という問題がおきてくるのです。
過失相殺というのは、被害者の損害発生または損害を拡大させたことについて、被害者自身にも過失があったときは、その賠償額をきめる際には、被害者の過失も考慮されるということで、「危険の公平なる分配」あるいは、「損害の公平なる負担」という見地から認められる理論です。
前の例によって過失相殺を適用した場合Aの具体的な損害額を数字で示しますと、Aの損害が全部で一〇〇万円にのぼったとします。
ところでAとBとの過失の割合は、Aの方には一時停止の違反というBの徐行義務の違反と比べてみると狙い過失が見い出されますので、その割合は、Aが七〇パーセント、Bが三〇パーセントといわれているのです。
そこで、AはBに対し賠償金として請求できる額は一〇〇万円のうちの三〇パーセント、すなわち三〇万円ということになります。
もし、Bの方にも自動車の破損などによって五〇万円の損害が発生していたとなると、Aの請求順に差が生じてきます。
というのは、Bの方もAに対し五〇万円
のうちの七〇パーセントである三五万円の請求が許されますから、Aとしては、貰えるどころか、差し引き五万円の支払いを負担しなければならないという結論になってしまいます。
この例でもおわかりいただけたと思いますが過失相殺のはたす役割はきわめて大きいものがあります。
また交通事故は、追突事故の一部を除いては、被害者側にもなんらかの過失があって、これが加害者側の過失と一緒になって事故を発生させる場合が非常に多いのです。自動車同志の衝突では、特に顕著に見られますが、歩行者との場合の事故でも、歩行者が急に飛び出したとか、横断禁止の場所を横断したとか、左右の安全を確認しないで歩いていたとか、などの過失が事故の発生につながっているのです。歩行者にまったく過失がないというのは、全休の一〇〜二〇パーセントにすぎないといわれています。
一方、交通事故では、加害者は自賠法によって重い責任が課せられています。ひとたび事故が発生すると、加害者は、よほどの事情がないかぎり賠償責任を免れるということはないのです。
ところが民法では、加害者に少しでも責任があれば、その過失の大小や、その他の事情を問わず、被害者の損害をすべて賠償しなければならないという完全賠償主義の建前をとっています。加害者にとってみると、こんな厳しい取扱いに対し、被害者の損害を減額することによって、ある程度の不合理を解消させる中和剤としての役割を果たすのが過失相殺であり、損害額分担の調整作用としての機能を持っているものなのです。
こういう事情がありますから過失相殺をするかどうか、する場合にはどの程度斟酌されるかということは、当事者にとっては、大変重要な問題であって、するどく対立するところなのです。過失相殺の割合が明らかになれば、損害賠償の争いは、解決されたら同然であって、紛争解決の鍵であるという人さえいます。
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