働けないほどケガをしたときの損害賠償は

私は建築技術者ですが、道路横断中暴走してきたダンプカーにはねられ、頭蓋骨陥没骨折というケガをしました。数回の頭部手術の結果、入院一ヵ年で退院しましたがつぎのような障害が残りました。両足のマヒによる歩行困難。左腕のマヒ状態。疲労したときのてんかん状の発作。軽い事務作業に就職しましたが、とても耐えられられません。二週間で解雇になってしまいました。どの程度の損害賠償の請求ができるのでしょうか。

 治療費や休業補償は現実にかかった費用や、入院および自宅療養中働けないための収入滅ですから、何十円、何円まで正確に計算できます。しかし労働能力が低下した場合、あるいは能力が全く失なわれた場合などは、将来健康で働けたとしたら、得られたであろうと考えられる収入を基礎として計算しますのでむずかしくなるのです。
 将来得られるであろう収入の計算がむずかしいのは、事故直前の収入に、将来働ける年数をかけて、機械的に計算すればよいとはかぎらないからです。大会社や官公庁などに勤務している若い人ならば、昇給ということも無視しきれないからです。
 このように基礎となる将来の収入の計算がむずかしいうえに、事故によるケガのため、どの程度能力が低下したか、またその能力低下がどの程度収入滅の原因となっているか、判断することもむずかしいのです。

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また本問の場合は、脳の機能障害が原因であること、および建築技術者という知的に高度の職業に従事していたことなどが、労働能力の低下、収入滅の程度の判定を、さらにむずかしくしているのです。すなわち被害者が筋肉労働者であり、ケガが片脚切断などのはっきり眼にみえるものであれば、労働基準法施行規則所定の身体障害等級表などをみて、ある程度の労働能力低下率がわかります。しかし、本問の場合は、労働能力がまったく失われたとみることも、五〇パーセント程度である、と考えることもできるのです。
 軽い作業であって休をあまり動かさなくてよい仕事、すなわち伝票の整理、図面の複写などの仕事ができれば、労働能力の失われた程度は、五〇パーセントぐらいでしょう。しかし、あなたか訴えるように、わずかな疲労でもてんかん状の発作を起こし、そのため失職し、再就職も不可能という場合は、廃人に近い状態になります。労働能力の失われた割合は一〇〇パーセントであるとみてもおかしくありません。
 あなたが一〇〇パーセント%の労働能力喪失を主張しても、加害者則は、あなたの障害の程度が外部からはわからない、ということで半分ぐらいだろうと主張するかもしれません。その結果、話合いが成立しなければ裁判所の判断を抑がねばなりません。裁判所は、あなたの労働能力の失われた割合を判定して、その分だけ収入が減少したものとして損害額を算定します。あなたは、医者の診断書、鑑定書などを証拠に提出して、事故による脳の傷害が、今日の障害をもたらしたことと、程度のはなはだしいことを立証しなければなりません。
 本問と同じような事例で、八〇%の労働能力喪失率を認めた裁判例があります。この場合、健康ならば得られたであろうと考えられる将来の総収入の八割を、現在の価値に直して損害額にすることになります。あなたとしては、要するにに全く働けない状態であろことを証明できるかどうかです。これが寝たきりで、意識も失った全くの廃人ならば、死亡と同じような得べかりし利益の損害賠償の請求ができることは明らかですが、あなたの場合はこれと同じというわけにはゆかないかもしれません。

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