得べかりし利益の算定の仕方
事故死した本人の、将来の得べかりし利益はどのように計算するのでしょうか。給与所得者、自家営業者などの場合はどうですか。また、死亡当時収入がなかった失職者、幼児、主婦などについては、これは認められないのでしょうか。
誰しも将来のことは、正確にはわかりません。死亡した人が生きていれば得たであろう利益(逸失利益)を計算するには、死亡当時の状態と現在わかっている一般的な資料を手がかりとして、将来をうかがうほかありません。
ではそれはどのように計算するか、といいますと、まず、何才まで働けるのか(稼働年数)を含める。
これは、本人の性別、職業、健康状態などによりちがいます。統計をもとにして常識的にきめるべきです。
生きていたらいくら収入があったのか(収入額)をきめる。
死亡当時の収入は、給与所得者などはハッキリわかっているでしょうが、個人企業者、失職者、女性、幼児などの場合、その額がハッキリしないかゼロかです。そうだからといって、将来無収入であるはずはありませんから、困難な問題です。
各種の資料、たとえば、厚生労働省の賃金構造基本調査結果報告害、労働統計年報、経済企画庁の常用労働者現金給与日報、東京都の実収入階級別一ヵ月平均総収入総支出など、あるいは同業者団体の平均収益率などにより算定することになります。
生きていたらどれだけ生活費がかかったか(生活費の控除)。これを計算しなければなりません。各種の統計などをもとに出します。
こうして出した純利益をもとにして、ホフマン式計算により中間利息を控除して計算することになります。
どうして中間利息を控除するかは、これは得べかりし利益として、将来、一生働いて得る収入を一度に先払いの形で請求
するわけですから、現在よりも後の何年間かの利息は控除しなければ、加害者に不公平なものになるからです。
それぞれの特殊性について、つぎに簡単に考えてみましょう。
(1) 給与所得者
死亡当時の収入はいちばんハッキリしています。公務員、大企業の従業員であれば、将来の昇給、昇進予定、退職金の額などもわかります。中小企業の場合はこうしたことが必ずしもハッキリしないことが多いでしょうが、給与基準表、退職金規定などがあるはずですから、それらを根拠に計算できるでしょう。
(2) 自家営業者
営業収益を基準に算定しますが、給与所得者のように、ハッキリしないのが普通です。売上帳、現金出納帳などの帳簿があれば、これをもとにして計算できますが、こうした帳簿が揃っていないか、揃っていても必ずしも明確に記帳されていない場合か多いので困りましょう。
所得税などの申告をきちんとやっているとか、幸か不幸か死亡の少し前に税務署から調査をされて更正決定を受けたとかいうような場合は、これによって将来の利益を
計算できますが、これらとて収益の実態が必ずしも正確にあらわれているといえないでしょう。
もう一つの方法は、政府の統計資料などから収入を概算的に算出する方法です(たとえば農業従業者が、反別収入の統計から一家の収益を算出し、本人の寄与率を乗じて計算する方法です)。
(3) 幼児
当然のことながら、幼児は死亡当時には収入はありません。それで、かつては幼児には逸失利益なしとしてこれを認めなかった判例もありましたが、「算定困難の故にたやすくその賠償請求を否定し去ることは妥当でない」とする最高裁の判例が出てから、下級審裁判所はその算定に苦労しなからこれを認める努力をしています。
東京地裁では、統計による全産業常用労備者の平均賃金から生計費としてその五〇パーセントを控除した金額を純利益額として、これを稼働全期間(ニ〇才〜六〇才)にわたって変動させない方法で計算する方針をとっているようです。
男女で、その賃金差からかなりの逸失利益額に差異が生じますが、統計上の数字を基礎にする以上やむをえないでしょう。なお、女児は二五才で結婚し、その後は無収入となる、とみる見解もありますが、女性の社会的進出は益々めざましくなってきていますから、このような考え方は、妥当とはいえないでしょう。
(4) 主婦
いわゆる主婦の座には定まった給与かありません。しかもなお、主婦労働はある種の経済的評価を受けるべきものです。
これについては、家事手伝人の賃金、その主婦の生前の内職収入の実績、勤労女子の平均賃金、家政婦の賃金などを斟酌して具体的に金額を定めたもの、または就職経験のある主婦につき就歳時の収入を稼働能力とみて損害を算定したものなど、いろいろな判例があります。具体的事情によりできるだけ有利な計算方法をとるべきです。
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