弁護士費用はいつでも請求ができるか

先月、夫が、乗っていたタクシーが街路樹に激突して亡くなりました。タクシー会社は申し訳ないといいながら、事故原因をハッキリ説明せず強制保険金程度でことを済まそうとしているようです。そして、弁護士を頼むと高くついて元も子もなくなるといいます。弁護士の費用は損害として相手に請求できないのでしょうか。

 訴訟のあり方として、訴訟は必ず弁護士が代理人としてやらねばならないとする制度(弁護士強制主義)と、弁護士に依頼しなくとも本人だけでもやれる制度(本人訴訟主義)とがありますが、日本では、現在、弁護士強制主義はとっておりません。ですから裁判は、たてまえからすれば、本人だけでやれるわけです。
 しかし、一般に賠償は技術的専門的な手続きです。わけても、交通事故による損害賠償訴訟はなかなかむずかしく、本人ではうまく追行できません。専門家に委託するのが一番安全です。
 ところで 訴訟費用ですが、判決文はその主文の終わりのほうで必ず「訴訟費用は被告の負担とする」とか、「訴訟費用はこれを三分しその一を原告の、その二を被告の負担とする」といった文言があります。このように負けたほうが訴訟費用を負担させられる、というのが原則です。

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ところが、さきほど述べたとおり、いまの法律のたてまえでは、法律は弁護士強制主義をとっていませんから、ここにいう訴訟費用とは、いわゆる弁護士費用は含まれておらず、貼用印紙代、証人の日当、書類作成書記料など狭い意味の訴訟費用のみを意味しているにすぎません。
 それで、弁護士費用を、相手からとるには訴訟のなかでこれを主張し、請求しなければなりません。交通事故の賠償において、これを損害として認容する立場と、認めない立場がありましたが、「交通事故の被害者が賠償義務者から任意にその履行を受けられない場合、権利実現のためには訴を提起することを要し、そのためには弁護士に委任するのが通常であるから、これに要する弁護士費用も事実の難易、請求額、認容額など諸般の事情をしんしゃくし相当と認められる額は交通事故と相当因果関係に立つ損害と解すべきである」という立場は、最高裁でも支持されています。交通事故については、弁護士費用は相手方に請求できる、と理解していいでしよう。
 ただ、不相当な額の請求であれば認めら場合もありえます。たとえば、請求損害額二四〇万円、過失相殺七〇パーセント、自賠責保険等の充当により四万円余のみが最終的に認容された事実では、弁護士費用は認められない、という判決が出ています。
 それでは弁護士費用はどこまで認められるか、といいますと、実際に支払った額全部が必ず認められるとはかぎりません。裁判所が認めるのは、原則として認容額(裁判所が認めた賠償額)の高低、事件の難易により幅はありますが、原則として認容額の一割前後であるのが普通です。
 これまで弁護士に事件を依頼したこともなく知りあいもないのでしたら、弁護士会には交通事故処理委員会があり相談にのってくれますし、費用がないのなら法律扶助協会が立て替えてくれます。
 交通事故処理委員会は、各都道府県の弁護士会のなかにあります。ここでは、専門の弁護士があなたの話をきいて、敏速、丁寧に処理してくれます。弁護士の紹介も、申し出ればしてくれます。法律扶助協会は、弁護士に頼みたくても費用が払えないとか、裁判費用もないという場合に、生活事情と事件の内容を検討した上で、訴訟費用や弁護士費用を立て替えてくれるものです。そしてこれは事件が絡わったときに返 済すればいいのです。法律扶助協会も各都道府県の弁護士会のなかにあります。
 示談屋、事件屋をたのめばことがこじれてしまったり、入った金の大半をとられたりします。泣き寝いりせず、餅は餅屋、必ず専門家である弁護士の門をたたくのか賢明でしょう。 

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