好意同乗者が死亡したときの賠償責任
私の経営する会社のダンプカーが無人踏切で電車と衝突し、運転手が重傷、現場の従業員Kが同乗していたため即死しました。Kは、もともと運転とは関係のない社員です。運転手に尋ねますと、Kにのせてくれとたのまれて乗せたということです。Kの遺族から損害賠償請求をうけたのですが、この場合にも会社に損害賠償の責任があるものでしょうか。なお、保険会社ではこの場合に任意保険金を支払わないことになっているというのですがどうでしょうか。
自動車損害賠償保障法の三条では「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する貴に任ずる。」と規定されています。
そこで、本問を検討してみますと、第一に、会社がこの交通事故につき「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当することは当然だとしても、同じ会社の運転手の自動車に同乗していた従業員Kが、自賠法三条にいう「他人」に当たるかどうかの問題、第二に、従業員Kがもともとこのダンプカーの運転とはまったく無関係の現場にいて、しかも頼んで乗せてもらったという事情かどうなるのかということ、そして第三に、任意保険金か支払われない根拠、のおよそ三点につきるかと思います。
第一点。自賠法三条にいう「他人」の範囲については、「自己のために自動車を運行の用に供する者および当該自動車の運転者を除く、それ以外の者」と解されています。したがって、本問の従業員Kは、このダンプカーの運転手、交替用員などの事情がなかったようですし、自賠法によって保護される「他人」に該当しますから会社には責任があります。
参考までに、英米法のもとでは、同一の使用者のもとで働く従業員が他の従業員の行為によって損害を蒙った場合には、使用者が損害賠償責任を負担しないという原則があります。「共働者の原則」と呼ばれていますが、わが国の法律では、このような原則が認められず、この原則を主張した裁判が敗訴した実例もあります。
第二点。ところで、従業員Kが運転とは無関係であり、しかも運転手にのせてくれるように頼んで同乗したということが、会社か損害賠償責任を負担するうえで、一〇〇パーセント責任があると判断されることは釈然としないものが残ります。このように一般に運転者が好意的に無償で他人を自動車に同乗させる場合には「好意同乗者」といわれ、その責任の範囲についていろいろ議論がなされています。
本問の場合には、同乗した事情が必ずしも明確ではありませんが、従業員Kがもっぱら私用のために職場をはなれ、その手段として会社のダンプカー運転手の反対を押しきり、無理に乗せてもらったような事情が認められると、会社には責任が発生しないと考えることもできます。
このように好意同乗者といってもその内容は千差万別ですが、一般論として責任を考える場合、運行供用者が七割、好意同乗者が三割と考えられているようです。つまり、従業員Kの遺族の請求は全損害の七〇パーセントということになります。
第三点。任意保険金が支払われない旨の保険会社の説明は、自動車保険普通保険約款第二章賠償責任条項第三条(免責)第四号、「被保険者の業務に従事中の使用人に対するその使用人の生命または身体を害したことに起因する賠償責任。ただし、使用人の業務が家事である場合を除く」に基づいています。
この約款条項の趣旨は、労災保険など他の社会保険などとの重複を避ける意味で設けられたと説明されています。
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