好意同乗者はどれほどの過失相殺をされるか
私は運送業を経営していますが、ある日私のところの従業員に銚子から東京まで鮮魚の輸送を命じましたところ途中でたまたま通りかかった会社員に強く頼まれてその
助手席に乗せました。その後従業員が居眠り運転をしたため、電柱に衝突し会社員を死亡させました。そこで遺族から私のところに損害賠償の請求をしてきました。私
が全く知らない間に従業員が勝手に会社員のたっての頼みということで同乗させてしまったわけですが私としては一銭も払わないというつもりはありませんが、金額賠償するについて何かわりきれないものがあります。この場合どんな態度で交渉に望んだらよいのででしょうか。
まさに好意同乗の問題です。好意同乗といいますのは運賃を取ることもしないで、親切心あるいは好意心で他人を自動車に乗せた場合に事故が起こり、その同乗者に損害が発生したときに運転手や企業主は損害を賠償しなくてもよいか、または損害の一部分しか賠償しなくてもよいかという問題として現われてきます。
日本では法律の上では、そのようなことは定められていませんが、アメリカやドイツでは法律で定められていて、それを日本で参考にして考えられた理論です。
好意同乗の問題として損害額を減額していく場合は、運転手が酔っぱらい運転している場合や、無免許運転をしている場合などに、同乗者がこの事情を知っているにもかかわらず、あえて同条して事故が発生したというケースのように、好意同乗者自身にも注意義務の違反がみられる場合が一般的でした。
ただ運転手の好意で同乗したというだけで、事故についてなんらの過失がみられないときには損害額を減額する理由にはならないとされていたのです。
しかし、好意で乗せてあげた運転手は、そのことで経済的な利益を得ることはなくむしろ失うことが多いのですが、精神的な喜びを得ることを目的として、そのような行動をとったわけです。
しかし、いったん事故か発生すれば運転者として責任を負い、好意でしたことがかえって全面的な損害賠償責任としての追求をうけ、時によっては経済的に生涯の負但となる場合も生ずるのです。
こういうことを考えてみますと好意同乗という契機だけでも賠償額の認定に際しては斟酌され減額するのが公平の理念にも合致するという考え方がありました。
この主旨に沿ってバス会社の従業員が出勤に際して、加害トラックに同乗して衝突して死亡した事案で、約二〇パーセントの減額をした判例があります。また、二一才の女性が一週間前に運転者と知りあって事故当日の深夜にこの乗用車に同乗してドライブに行く途中に、自動車が道路の左側に乗り上げて横転したため、そ
の女性が死亡した事件で、東京地裁は、若い女性が一週間前に知りあった男性の車に深夜同乗するということは若い女性としての節度を逸脱したような行動であって、しかも時速約八〇キロという速い速度で走っていたのをあえてその女性がとめなかった、こういう事情を考慮して三〇パーセントの過失相殺を適用したものもあります。
本問の場合、好意同乗者に頼まれて同乗させたわけですが、事故の原因が運転手の居眠りですから好意同乗者になんら責められるべき事情がなく、運転手の一方的な過失によって発生したものでしょう。
しかし前にもあげた地裁の判決もありますから、二〇パーセント程度の過失相殺は適用されるものと思われます。
なお好意同乗という点だけで、あえて好意同乗者自身に過失が見いだせない場合に、過失相殺を適用するのは被害者に酷であって、公平の観念に反する場合もあるでしょう。そのような場合には慰謝料分だけに斟酌して減額する方法をとっているのが一般的な判例の考え方です。
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