ダンプ持込みの運搬業者が起こした事故責任

私は、土石、砂利、砂類の採掘販売をする会社を経営しています。Nは、私の会社の砂利採取場にダンプカーをもち込み、砂利の運搬業をしています。もちろん、ダン プカーはNの所有ですが、会社はNに対しダンプカーの使用料を含めて一日ニ〇〇〇〇円の割合で賃金を支払っています。ところが、Nは休日にこのダンプカーに知人をのせ、駅へ送っていく途中、交通事故が発生しました。被害者は、会社にも責任があるというのですが、どうでしょうか。
 自分の車をもち込み、会社の運送、販売部門を独立に担当しているというケースはよくあります。自動車損害賠償保障法三条は、人身事故の責任を誰か負うのかについて、「自己のために自動車を運行の用に供する者」としか規定していませんので、どういう場合がこの条文に当たるのかは、もっぱら法律の解釈の問題となっています。
 もともと自賠法三条でいうところの運行供用者の責任は、利益の帰属するところに責任があるという報償責任の考え方、あるいは自動車という危険物を運行させるものの危険責任の考え方が基調になっているといわれています。

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そこで、この運行供用者の責任は、自動車の運行に対する支配(運行支配)および運行による利益(運行利益)の帰属するところにあると考えられています。したがって、本問のように、会社は事故を起こしたダンプカーが、自分の所有物でないことを理由にして、ただちに責任を免れることはできません。
 かつて、最高裁判所の判例の考え方では、この運行供用者責任を決める具体的基準として、
 (1) 車の利用権者と運転者との間の雇用関係等密接な関係の有無、
 (2) 日常の車の運転状況、
 (3) 車の保管状況、の三つの条件を挙げていました。
 しかし、最近の裁判例の傾向は、ますます運行供用者責任を広く認め、主として、運行支配の実質関係を判断の対象とし、しかも、それは具体的に運行の指図が行なわれるような支配関係に留まらず、抽象的、客観、既に運行の支配関係があれば、運行利益の要件も満たされて、「自己のため」の運行となり、責任を負担しなけれぱならないというように発展しています。
 そこで、本問の場合に、Nが、その所有のダンプカーを持ち込み、継続的かつ専属的に砂利運送を続け、他方、会社がこれに対し、ダンプカーの使用料を含め、一日金ニ〇〇〇〇円の賃金を支払っている関係があるかぎり、あなたの経営する砂利会社に、ダンプカーの運行支配、運行利益があると考えられ、このことから会社に運行供用者の責任があると考えられますので、被害者に対して賠償責任を負担しなければなりません。
 また、Nの交通事故は、休日に、友人を駅へ送り届ける途中、発生したとのことですが、前に述べたように、運行供用者責任の判断基準は、抽象的、客観的に考えられており、砂利会社の具体的な運行支配までを必要としない以上、休日に知人を送るという事情によって会社の運行支配を離脱したとは考えられません。
 したがって、会社はここに述べたような事実があったからといっても責任を免れることはできません。
 なお、これと同種の交通事故の事案について、最高裁判所まで争われ、会社側が敗訴した判決があります。

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