路上で寝ていた人を轢いた場合の過失割合
私は深夜友人を乗せて国道を時速六〇キロメートルぐらいで、ライトを下向きにしたまま走っていましたが、友人と話をしていて、よく注意していなかった私も悪いのですが、まさか真夜中に道路上に寝ている人が居るとは思わなかったので、そのまま進行し約一五〇メートルくらいに近づいて初めて白いワイシャツを着て手に頭を乗せたまま横臥しいる人を発見し、あわてて急ブレーキをかけたが間に合わず、轢過してしまいました。このような場合、私の責任割合はどのようになるのでしょうか。
道路は人や車が通過するためのもので、物を置いたり、人が寝たりするのではないのは当り前のことです。そこで、道路交通法七六条では、酒に酔って交通の妨害となるようなフラつきや、交通妨害となるような方法で寝そべったりすることを禁止しています。
しかし、運転者たる者は前方をよく注意して進行していかなければならないのは勿論、特に夜間では前方の見透しがききませんからライトを上向きにして進路前方の道路上の異常な物の発見につとめ、事故を未然に防止すべき注意義務があるわけです。
本問では、友人との話に気をとられてよく前を注意しないで運転し、わずか一五メートルぐらいに接近するまで障害物に気づかなかったという不注意がありますが、その過失は重大です。
もし、よく前を見ていたら人に気がつき、十分ハンドルさばきで寝込んでいた人を轢かないですんだとも考えられます。
そこで、あなたと被害者との過失を比較してみますと、どうも真夜中に道路上に寝ている方が悪いように思えますので被害者が六〇パーセント、あなたが四〇パーセントの過失割合とみるのが妥当ではないでしようか。
これによく似た判例を二つ挙げておきましよう。
東京地裁、昭和四五年一〇月三〇日判決は、会社の慰安旅行で飲酒酩酊して旅館から出て道路に寝ていた時に車にはねられて死んだ被害者に、六〇パーセントの過失相殺を認めています。
高松高裁、昭和四五年一二月二三日判決は、小雪の降る深夜、飲酒酪酎してジャンバーを頭から被り、橋の中央にうずくまってい
た被害者に大きな過失があるとして、七〇パーセントの過失相殺をしたものなどがあります。
被害者が道路上で寝込んだり、うずくまっているように自動車の運転者の発見を著しく妨げる場合と違い、道路上をフラフラ歩いていた場合の事故については、寝ているのと違って、立っているので、それだけ発見しやすい状況にあるわけですから運転者の方により多くの過失が課せられます。
したがって、被害者が酩酊していたとしても、その過失は三〇パーセント程度ではないでしょうか。
また、道路上の事故でよく問題となるのは、子供が道の上で遊んでいる時に事故になったという例です。
道路交通法七六条でも、交通が頻繁な道路では球遊びやローラースケートまたはこれに似かよった遊びをしてはならないと規定しています。自宅の庭や公園が少なく子供の遊び場に用いるといっても、子供がこの規定に反して交通の頻繁な道路で野球などをしている最中に、車にはねられた場合は、約三〇パーセント程度の過失相殺を適用されてもやむ得ないところでしょう。そ
れがもし見透しの悪い夜中にローラースケートをしていたというようなことがあれば、さらに過失が加重されてきます。
もし、その場所に横断禁止の標識がある
としたら、運転者の過失はごくわずかになっています。
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