急ブレーキをかけて故障したときの賠償請求
車道を制限速度で進行していたところ、ダンプカーが他車を追い越そうとしてセンターラインを越えて左側にはいってきました。私はすぐそれに気づき、急ブレーキを
かけ危うく正面衝突を免れました。ダンプカーはそのまま走り去りましたが、私の車は急ブレー牛をかけたため故障を起こし、一二万円の修理費を使いました。弁償を請求したいのですができるでしょうか。
自動車は事故を起こしやすい、いわば走る凶器の典型的なものです。そして一旦事故を起こすと、被害も大きく、刑事上の処罰を受けることはもちろん、民事上の損害賠償請求にも応じなければなりません。のみならず、死亡事故などの大事故を起こした場合は、せっかく高い金と息づまる緊張の結果取得した運転免許証まで取消しあるいは停止されてしまいます。自分で起こした事故については車の修理費を負担しなければたらないことはもちろんです。
ところが事故がおそろしいからといって、過度の安全運転をしていると、道路が狭く交通量のはげしい都会地では、ほとんど自動車としての機能を発揮できません。それでは物の役にたたないばかりか、後続車をも制約して交通渋滞を生じ、クラクション鳴らされて困るだけではなく、交通行政の面でも支障が出てきます。
そこでお互いに交通に携わる者は、自分が交通法規を守るとともに、相手方もまた交通法現にしたがって通行するものと信頼し、その信頼の上に立って、自動車を運行する以外に方法がなくなります。これを広く「許された危険」とか「信頼の原則」といって、交通違反事件で無罪となったり、損害賠償事件で賠償額の減額理由として用いられたりしています。
この原則は専用軌道をもつ汽車、電車、ガソリンカーには特に広く認められています。反対に自助車と歩行者の間では認められることは非常に少ないのが現状です。その中間が自動車同士の事故の場合ですが、刑事上もこれを認める判例が相つぎ、また民事上は後に述べる過失相殺の適用上、大いに参酌されているといえましょう。
原則論が長くなりましたが、これはあなたのケースがいわゆる交通事故を起こしたのではなく、いわば一人芝居に終わっているからです。しかもあなたの急停車がなかったならば、衝突事故を起こし、相当な被害を出したであろうことが、十分に推察できるからです。
ここで原則論を本問の場合に当てはめてみますと、あなたは制限速度にしたがって左側を進行していたのであり、急ブレーキをかけて事故を防止したのですから、一点の非もありません。反面ダンプカーの運転者は、センターラインを越えて追い越しをしたのですから、典型的な法規違反者だといえるでしょう。無理な追い越しですからスピード違反があったことも容易に想像されます。
このような不法な運転者にかかっては、あなたならずとも、大変な迷惑をこうむります。あなたの車に後続車があったときは連続追突事故さえ起こりかねない場合でしょう。信頼の原則からいっても、ダンプカーに非があることは明白です。あなたの機転によって、事故は防止できましたが、残念なことに車に一二万円もの損害が生じてしまったのです。よく言う「自己過失」によって生じた損害でないことはもうおわか
りでしょう。むしろあなたにはなんの過失もありませんから、過失相殺をされる心配もありません。
ただ車の故障が必ずしも、たった一回の急停車によって生じたものか、以前からガタがきていたため、一度に大きな故障とたって現われたのかは、大いに争いのあるところでしょう。新車の場合ならほとんど一二万円全額の賠償を受けられること間違いなしと思いますが、古い車であったときは、整備不良車ではなかったとしても、急停車と関係ある事故か否かによって、相当程度減額されるおそれがあります。
いずれにしても、現に走っていた車ですから、修理費の大部分は弁済をうけられるでしょう。
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