犬が轢かれたときの賠償請求

私は大の動物好きで、愛玩用として、スピッツを飼っていました。純粋のスピッツで血統証もあり、行儀もよかったので、食事や風呂も私達と同じようにさせていまし た。ある朝運動に遅れ出していたところ、歩車道の区別のない道路で、後ろから来た自動車にはねられ即死しました。一〇万円で買ったのですが損害賠償を受けられるでしょうか。

 結論から申し上げますと、賠償を受けられます。しかし、今はやりの自動車損害賠償保除法の対象にはなりませんし、いわば一種の物損事故として解決するより方法がありません。
 そこでまず賠償請求が受けられる理由について考えてみましょう。民法七〇九条によると「故意又ハ過失二因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之二因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責二任ス」とあり、七一〇条には「他人ノ身休、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト対座権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規完二依リテ損害佐波ノ責二任スル者ハ財産以外ノ損害二対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス」と規定されています。この七〇九条の規定が、不法行為による損害賠償に関する定めで、七一〇条が損害賠償と並び称される慰謝料に関する定めなのです。

スポンサーリンク

動産、不動産については、だれも所有や 占有の対象になることを疑いませんが、生きた犬や猫についてはちょっと疑問な感ずる方もあるかもしれません。しかし、一種の動産と同視して所有も占有もできると解釈してよいわけです。そうだとすると、あなたは自分の所有するスピッツをはね飛ばされて即死させられたのですから、スピッツの所有権が滅失した場合に当たり、スピッツが死亡した当時もっていた純粋種としての価値を、まず損害賠償として受けられることになります。
 つぎにスピッツの価格のほかに慰謝料の支払いを受けることができるかどうかを考えますと、あなたは愛玩用として飼養し、食事や風呂も家族同様にさせていたというのですから、スピッツを家族の一員として可愛がっておられたのでしょう。明治時代の判例には、犬がひき殺された場合に五〇〇円の財産的損害賠償を意じたが、慰謝料請求は認められないとして棄却した例があります。しかし、戦後の判例では愛玩用動物についても慰謝料の請求を許しかものがあり、学者も賛成していす。したがって、あなたの場合も、家族の一員として可愛がっていたスピッツの死亡によって受けた精神的苦痛を、慰謝料として支払いを受けられることになります。
 最後に損害賠償と慰謝料の金額について考えてみましょう。いずれについても、まず自動車の運転手に過失のあることが絶対に必要です。万一過失がないことには、根本的に不法行為が成立せず、したがって損害賠償も慰謝料の請求もできません。しかし、自殺をしたり、犬猫が飛び込んで死んだ場合の特殊の例外を除けば、ほとんどの事故の場合、運転手は過失責任を免れないのが実情です。
 本問の場合、事故の模様がはっきりしませんが、可愛いスピッツの朝の散歩ですが、もしかするとリードをはずしていたかもしれません。それでも愛するあまり毎日散歩させていたのですから、スピッツはあまりはしゃいでいなかったととでしょう。リードにつないでいたのでしたら、あなたの方の過失はほとんどないといってよいでしょう。歩道と車道の区別がないのですから、お互いに譲り合って通行する以外方法がないわけで、道路の右側で起きた事故であるかぎり、過失相殺されることも少ないでしょう。
 しかし、結論としては、スピッツの交換価値一〇万円の損害賠償と慰謝料いくらかを請求できることになり、過失相殺がないかぎり損害賠償は、ほとんど全額認められるでしょう。しかし、愛玩動物の死亡による慰謝料については、まだまだ額がきわめて低く、損害額の三分の一から二分の一も認められればよい方だと考えた方が無難でしょう。

交通事故の賠償金はどのような法律によって定められているか/ 運行供用者の交通事故の責任/ ケガの場合の損害賠償の算出/ 死亡事故、物損事故の場合の損害額の算出/ 死亡したときの損害賠償の請求額は/ 得べかりし利益の算定の仕方/ 弁護士費用はいつでも請求ができるか/ ケガの場合に請求できる損害の範囲/ 働けないほどケガをしたときの損害賠償は/ 後遺症の危険があるときの被害者の心得/ 後遺症の場合の損害賠償の時期/ 交通事故で財産上の損害を与えたときはどうなるか/ 店舗を壊された被害者の賠償請求は/ 歩行者が落とした時計をひいたら全額弁償を要求された/ 急ブレーキをかけて故障したときの賠償請求/ 犬が轢かれたときの賠償請求/ 車の修理費や代車料は賠償請求できるか/ 過失相殺とはどのようなことをいうのか/ 誰に対しても過失相殺は主張できるか/ 裁判所では過失相殺をどのように運用しているか/ 自動車保険でも過失相殺をされるか/ 被害者の息子の過失のために事故が起きたとき/ 入院中の態度が悪いために被害が拡大したとき/ 過失割合の認定基準/ 好意同乗者はどれほどの過失相殺をされるか/ 横断歩道上の事故でも過失相殺されるか/ 飛出し事故の過失割合はどのくらいか/ 追突事故では過失割合はどう認定されるか/ 交差点で衝突したときの過失割合/ 複数の車の事故による賠償はどうなるか/ 路上で寝ていた人を轢いた場合の過失割合/ 荷台から転落して死亡したときの過失割合/ 自転車に三人で乗っていた場合の過失割合/ 使用者責任と運行供用者責任の関係/ 時間外の無断運転中の事故、雇用関係のない者の事故はどうなるか/ 貸した車が起こした事故と貸主の責任/ 自動車の名義貸人の責任と盗難車が起こした事故の責任/ 損害賠償をした使用者は従業員に求償できるか/ 休業中に従業員の起こした事故はどうなるか/ 会社の車を無断で使用中の事故はどうなるか/ 修理工場の工員が起こした事故と所有者の責任/ 同乗していた経営者の責任はどうなるか/ 社員個人の車が通勤中事故を起こしたときは/ 好意同乗者が死亡したときの賠償責任/ ダンプ持込みの運搬業者が起こした事故責任/ 複数の車が人をはねたときの責任関係/ 家族全部が共同で働いていた場合の事故の責任/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク