貸した車が起こした事故と貸主の責任
X社はY社から、一週間くらいだけ車を貸してもらいたい、決して迷惑はかけないから、との依頼を受けたので、運転手つきでトラック一台を貸してやりました。とこ
ろが運悪くそのトラックが人身事故をおこしました。このような場合、X社に責任はあるでしょうか。
結論をさきにいいますと、運転手つきでトラックを貸した場合は、X社の責任はまぬがれません。車の運行支配はX社に残っているからです。借主のY社もX社とともに運行供用者として責任を負います。
トラックだけ貸した場合は微妙です。X社とY社が、元請と下請のような業務上の特殊な関係があるとか、人的構成に密接な関係があるような場合は、貸主のX社に運行供用者としての地位と責任が残る場合がありましょうが、単純でドライな貸借関係であれば、原則として借主Y社のみが運行供用者となります。運転者でなく人夫をつけてトラックを貸した場合は、特別な事情がないかぎりトラックだけを貸した場合と同一です。人夫は運行について特別の意味がありませんから。
いったい、自動車の貸借にはいろいろな場合が考えられます。貸主に責任があるかどうかは、具体的な事実関係により結論が異なってきます。
まず、長期間第三者に貸しっ放しのような場合には、割賦販売の売主と似た立場になり、賃料はもらうが運行支配は全然ありませんので、運行供用者は借主だけであり貸主には運行上の責任はありません。
これに対し、家族や友人に一時的に車の使用を許したような場合は、運行支配も運行利益も貸主に残っていますから、貸主が運行供用者としての責任を負うことになります。
この二つのタイプの中間に、さまざまなケースがあります。運転者つきかどうか、期間、賃料その他の対価の有無と多寡、貸主と借主の関係などにより、貸主かまたは借主が、あるいはその双方が運行供用者となりましょう。
ドライブクラブの自動車につき、運行供用者はだれかが問題になったことがあります。第一審では、貸主にも保有者としての責任があることを認めましたが、上級審はこれを否定しました。しかし、これは大いに異論がありうるところで、近年の東京地裁の判決では、運行供用者としての責任を認めています。
土建会社であるA社は工事の一部をB社に下請させていますが、B社の依頼により入社の信用で入社名義でトラックを購入することを許しました。月賦代金その他はもちろんB社が支払っています。このトラックをB社のC運転者が運転中事故を起こした場合、A社に責任があるでしょうか。
元請人のA社と下請人のB社は法人格が別であり、A・C間にはもとより雇傭関係はありませんが、業務上指揮監督関係があるかぎり、A社はB社の関係で使用者と同様の地位にたちます。自賠法ができる以前から、民法七一五条の使用者責任についての判例に、元請人が下請人に対して指揮監督権をもつ場合はもちろん、下請人の被用者がした行為の結果が予見できた場合、下請人の被用者に対して間接的に指揮監督権を保有している場合は、すべて元請人に使用者責任を認め、元請人の責任を徐々に拡大してきました。
自賠法三条はこれを発展させるかたちで生まれてきました。したがって、元請人の責任は重くこそなれ、軽くなることはありません。
A社のように自動車の名義使用を認めていることは、対外的にB社に対する指揮監督権を明示していることに他なりません。特別の事情がないかぎり、B社のC運転者の事故については、たとえ下請業務以外の目的で使用したときの事故であっても、責任は避けられません。
自動車の所有名義が元請人のA社でなく下請人のB社であったときはどうでしょうか、この場合はその車の運行が元請人のA社との関係で、どのような意味をもっているかでかわってきましょう。客観的、外形やにみてCがA社の被用者と同様の立場にたつ場合、すなわちCに対しA社が直接間接に指揮監督権を保有している場合のCの行為が、A社の事業の執行につきなされたものというべきであり、その限度でA社はC運転手の事故につき責任を負うことになります。
土木工事の場合など、A社の名において現場が維持されB社の代人だけでなく、A社の監督員がしばしば姿をみせるょうなかたちの場合は、たとえ自動車の名義人がB社であっても、A社にもその車の運行供用者責任、C運転者の使用者責任があります。下級裁判所は元請人の責任範囲を拡張して解釈しょうとする傾向にあります。経営者は下請人を使っている場合十分注意する必要があります。
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