過失割合の認定基準
東京地方裁判所の裁判官によって自動車事故の損害賠償を算定する際に、重大な要素を占めると思われる過失割合について、認定基準表が発表されていると聞いていま
すが、それはどういうものでしょうか。
被害者に過失がある場合に、過失割合を認定して損害額を算定するうえで、どの程度斟酌するかは、裁判官の自由裁量にまかされています。そして、その理由を判決文中で明示する必要もないとされています。
そうはいっても、同じような事故なのに、過失の斟酌の割合がまちまちであれば、被害者、加害者間での公平な取扱いが期待できなくなります。また裁判所の判決を受けなければ過失の割合がわからないということになりますと、具体的なケースごとに、いちいち証拠調べをしなければならないことになります。そうすると多くの時間と手間を要することになるので、訴訟の迅速ひいては、被害者の救済という社会の要求に反する結果になるでしょう。
過失の割合を厳密に分析していきますと、そもそも事故の態様は千差万別であって、個々のケースごとにわずかながら違いが出てくるものですから、具体的な事情を加味して判断する必要があります。
しかし、そもそも交通事故の損害賠償額
の算定自体は、そう正確なものではないのです。たとえば、死亡による逸失利益の算定方法も、誰も将来のことは分からないのですから、一種のフィクションであって、あいまいなものなのです。前提である損害額の認定が不正確ですから、過失相殺を適用するに際して、過失の割合をいくら緻密に正確に算出しても合理的な結論を導き出せないわけです。
一方被害者の救済という立場に立って、損害賠償の解決をにらんだ場合には、被害者に十分な補償を与えると同時に迅速なる解決も考慮する必要があります。
このような時流の声と十分なる正当性をもって過去の類型的な事故の裁判例をとりあげ詳細に検討し、分析した結果、東京地方裁判所の民事交通部のによって昭和四四年一月、自動車事故の過失割合の認定基準表を作成発表され、過失割合の定型化の試みが提案されました。
大変勇気のある労作であって、この試案によって、その後、交通事故の紛争の早期解決に非常に役だちました。
ところが、その後道路交通法が改正された関係もあって、基準表を修正しなければならない事情が生じたため、昭和四六年一二月「改正道文法による自動車事故過失割合認定基準表」として、前のを修正した基準表を発表されました。
この表は、基本要素と修正要素の二つからなりたっており、基本要素については、主として、道路交通の優先関係を基礎にして過失割合の数値を出しているのです。修正要素は個々のケースごとに具体的に考えていきます。運転手の運転上の技術、注意に対する姿勢などの主観的な事情と、道路の状況、交通環境などの客観的な事情の二つを取り出して、この事情を勘案することによって、基本要素の過失割合の数値を修正する作用を営もうとしているものです。
類型的な事故の形態としてとりあげているのは、後に掲げる表にみられるような八つの場合で、それぞれ表を作成し、細かく分析して過失割合を表示しています。
信号機のある道路を横断している例をとりあげてみますと、歩行者の信号が赤であるのに歩行者が道路を横切っているときに、青信号で進行してきた自動車に、はねられた場合には、その過失割合は基本要素によって歩行者九〇パーセント、自動車が一〇パーセントとなります。
この場所が、信号機がなく、警察官が交通整理をしていた時は、修正数値の-10は歩行者の方に有利に作用しますので、その基本的な過失割合は、歩行者八〇、自動車二〇というパーセントになります。
この基本要素に対し、修正要素の客観的事情と主観的事情が加味されて具体的な数値が算出されます。この場所が、車の交通が頻繁な道路であるとか、歩車道の区別のある広い道路の場合には、先の基本割合の歩行者九〇パーセントの数値より増えて、歩行者に不利に働くことになります。
反対に歩行者が、児童、幼児、老人であった場合には、自動車の方に不利に働き、それに対応して歩行者に有利に作用する結果になります。歩行者が目の見えない人や、耳の聞こえない人であって白い杖を持っている場合であれば、前の状態よりさらに、自動車にプラスの点数が与えられ過失割合の数値があがります。
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