入院中の態度が悪いために被害が拡大したとき

私はちょっとした不注意で車で男性をひき大腿骨々折の傷害を与えてしまいました。その男はすぐ病院に入院し治療を受けていたのですが、約三ヵ月くらい真面目に治療を受けていたようですが、その後ちょくちょく夜外出をしたり酒を飲んだりするようになって、医者もほとほと手をやいている状態です。毎月一〇万円ずつ休業補償費を払っていますが、もうそれが一〇ヵ月ほどつづいていて、医者に聞くと、本人が一生懸命治療に専心しないので良くならないと言っています。私は休業補償費の支 払いを打ち切りたいと思っていますが、社会的な非難は生じないものでしょうか。

 交通事故において被害者の過失というものは、普通道路を横断する際に左右の安全を確かめずに横断して事故にあった場合のように、被害者の不注意が介在して事故が発生したというように発生自体の過失、すなわち寄与過失が大部分です。
 しかし、事故の発生後でも適切な治療を受けなかったため損害が拡大したというように、損害拡大防止にかかわる過失も考えられます。この過失を事後過失と言っております。
 不法行為によって被害を受けた被害者であっても、加害者に対する関係では信義則上の義務として損害の拡大を抑止すべき義務があり、被害者が義務を怠って損害を拡大させたとき、その拡大させた部分については被害者が負担し、加害者に請求できないとするのが公平な取扱いです。

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ところで、緻密に考察すると、この事後過失は寄与過失と同じ平面で過失相殺を論ずるわけにはいきません。たとえば、むちうち症で通院治療している際に、誤って転倒し足を骨折したような場合を想定してみますと、骨折した部分の損害は交通事故の直接の損害であるむちうち症とは関係のない損害になるので、相当因果関係のない部分とみられ、その部分は、賠償の対象とはならないわけです。
 したがって、事後過失といっても、本来は過失相殺の対象として減額するという理屈ではなく、始めから損害の範囲に含まれない損害であるということになります。
 しかし、拡大した損害のどの部分が被害者の過失にあたるかどうか、事故と関係のない部分はどこかなど判定することは大変難しいので、便宜上、全損害について加害者の損害を認めた上で、過失相殺で減額するという方法が採られているのが実情です。
 判例で、左上腰骨類上骨折などの傷害を受けた被害者が、療養中に医者や看護婦などの注意に従わなかった事例で「被害者が事故によって受けた傷害が普通ならば約五ヵ月程度の入院加療によって治癒するものであると認められるが、被害者は病院に入院中、医者および付添看護人の注意に従わず勝手に包帯やガーゼをはずしたりしたこと、さらにそのような療養態度が被害者の骨折部分が後方に転移したり、上腰筋炎を併発して現在のような動揺関節になる大 きな原囚となったものと確認することができる。そうであると、被害者は入院中患者として医者並びに付示看護人の指示や注意を守らねばならない義務があるのに、それを怠った過失かおり損害を拡大させたということができるとして約五〇パーセントの過失相殺を適用したものがあります。
 また、被害者が医者から禁止きれた酒などを飲み、しかもケンカするなどの生活態度の悪さが症状の感化に影響があったと認められて、飲酒ケンカ後の損害を全額否定した判例もあります。
 本問の場合も被害者の治療態度の悪さを医者が認めているようですから、その旨よく医師に確かめられて、真面目に治療に専念していたらどのくらいの月日で治っていたのかを判断してもららて、一〇ヵ月以内で治ったということであれば、今後、休業補償費の支払いはしなくていいでしょうが、もう少し長くかかるであろうという話であれば正常の治療で治療する時期までの支払いは止む得ないと思います。

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