横断歩道上の事故でも過失相殺されるか
私の小学六年生の一人娘が、学校の帰り信号機の設置されていない横断歩道を渡って道路の真中を歩いていたところ、右側からきた八トンという大型トラックにはねられ亡くなりました。子供のことですのでまっすぐ前を向いて横断していて左右の車の安全を確認していなかったようです。私は子供の死亡によって大変ショックを受けたのですが損害賠償の交渉を相手の運送会社としたところ、子供にも過失があるから過失相殺をするといわれ二重のショックを受けました。横断歩道を渡っている子供にも過失があるのでしょうか。
現代の交通戦争においては歩行者はだんだん隅においやられ、横断歩道を横断中といっても、全然安心してはいられません。
車と人との衝突事故が起きれば車には大して被害がないのに、人には一〇〇パーセントケガをするか死亡するかの恐ろしい結果が生じるものです。今のように自動車か我もの顔にまかり通る世の中では歩行者が本当に安心して歩行できるのは自分の庭か山谷の登山道ぐらいでしょうか。こんな状態ですから横断歩以上の歩行者の保護ということを強く守っていかなければ歩行者は安心して外にも出られない状態になります。
そこで、この横断歩道は歩行者の絶対的な優先地帯になっているのです。この保護の例外としては、横断者か赤信号で渡った場合とか、もう一つは自動車の直前の飛び出し事故です。
そのため、道路交通法三八条によって、自動車の運転者は歩行者が横断歩道によって道路の左側部分を横断し、または横断しようとしているときは、横断歩道の手前で一時停止をし、その横断を妨げてはならないことになっており、これに違反して事故を起こした運転手については、刑事上で厳しく処罰され原則として実刑に処せられているようです。本問の場合の加害運転手もたぶん実刑に処せられたことでしょう。
本問の場合ですが、あなたの娘さんが左右の安全を確認しないでまっすぐ前を向いて歩き出したわけですが、もし右側の安全を確認していれば事故の発生は防げたものではないでしょうか。
というのは娘さんが右側の方をよく確かめていれば渡ることはなかったでしょうから、そこであなたの娘さんの不注意もこの事故の発生の一因をなしているものと思われます。そのため最近の判例中で右側の安全を確認しなかった場合には一〇パーセント程度の過失相殺を適用している場合が多いことからみまして、あなたの場合にも一〇パーセント程度過失相殺されるのではないでしょうか。
横断歩道を横断している場所に信号機が設置してある場合であれば、その信号が青であるかぎり、かりに飛び出しの状態があっても、歩行者に過失相殺はありません。反対に信号が赤の場合、たとえ、左右の道路の安全を確かめて渡ったところを猛スピードで走ってきた自動車にはねられたとしても、八〇〜九〇パーセント程度の過失相殺は適用されます。
いくら歩行者優先、歩行者の保護というものが叫ばれているとはいえ、歩行者としてもやはり交通法規を守り交通道徳を遵守していなければならないわけですから当然のことでしょう。
ところが、判例の中には、歩行者か青の信号に従って横断歩進上を横断するに際して、右折、左折する自動車の状態を良く注意しなかったとして、被害者に一〇パーセントの過失相殺をし、歩行者にとっても交通の安全に留意すべき注意義務があるということを判示して、歩行者にきびしい態度をとったものがあります。
また、横断禁止の道路を横断した歩行者に対しては、きびしい過失が問われ、歩行者の七〇パーセント程度の過失割合が適用されます。
この理由としては、横断禁止の場所は自動車等の交通の往来が頻繁であり、事故発生の危険がきわめて大きい場所ですから横断禁止場所と指定したのであって、それを無視して事故を招いた被害者を、全く保護する必要は認められないということに基づくものでしょう。
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