損害賠償をした使用者は従業員に求償できるか
私は砂利運搬の会社を経営しています。先日運転手が事故を起こして、会社と被害者で示談が成立し、一八〇万円の示談金を支払って解決しました。今後こんな事故のないように監督を十分にしたいと思うのですが、事故のたびに会社か支払っていたのでは経営にも影響してきます。支払った賠償金の一部でも運転手に負担してもらいたいのですが、法律ではどうなっているのでしょうか。
運転手に故意または過失があって事故を起こしたときにその運転手が被害者に対して賠償義務を負うべきであることは、いうまでもありません。自分の落ち度で発生した事故なのですから当然のことです。
ところが、時代の進歩と社会生活の複雑さに伴い被害者に気の毒な場合が多くなってきたために、もっと被害者の立場に立ち、事故に直接関係のない者でも一定の範囲で責任を認めるようになってきました。そして、いかなる場合にどの程度の責任追及をしてよいかという積極的な面から、法律が規定を設ける必要か生じてきました。
たとえば人を使っている雇主は、使用人が他人に迷惑をかけたことについて責任を負うとか、また物理的に大きな施設をもつ人は、その物的設備の欠陥により他人に迷惑をかけるときは、自分が直接手を出したことでなくても責任を負うとか、いろいろの面で責任を認めるようになりました。
自動車の保有者が、実際には運転をしなくても、保有者なるが故に一定の責任を認められるのも、その一つです。これらは、すべて、現実の社会に起こる事故を被害者の不利益にならないように、被害者を救済するために設けられた規定です。
ところであなたが、被害者に対して、運転手の起こした事故の賠償をなしたことは、法律的には、一体どんな意味があるのでしょうか。あなたの責任として支払ったのか、運転手の代わりに支払ったのか。そのいずれでもないのか。これについてはそれぞれ法律の定めがあります。
それによりますと、あなたの場合には、あなた自身の義務と責任において、被害者に支払いをすることになっています。被害者の立場からいえば運転手に対しても、運転手の雇主であるあなた本人に対しても、同時に賠償請求ができるのです。ただこれは対外的な関係と対内的な関係とに分けて考えなければなりません。対外的ではあなたに全責任がありますか、あなたが対内的にその運転者に対して何か請求できないかということは別問題です。法律が運転手と雇主および自動車の保有者の両方に対して賠償請求できるとしているのは、被害者保護のためであって、加害者側の者同士でどんな処理をすべきかということには別の考慮がなされています。
ところで、あなたは、その運転者に運転上の落ち度があっても、特別の事情がないかぎり、あなたが支払った示談金相当額を運転手に請求できません。ただし運転手に酔払い、無免許などの悪質な行為があった場合は別です。
結果的には運転手の賠償義務を立替支払いしたようなことになりますが、もともと被害者保護のためですからやむを得ないことだと思います。
ただこれでは、結局において運転者個人にあまりにも負担が大き過ぎて、今度は資力の乏しい運転手個人に気の毒な結果となりますので、いろいろの保険制度や積立制度が工夫されているわけです。
車を営業に使うような会社の場合には、これらの保険制度や積立制度を活用すると共に、車の安全管理、運転管理に十分心がけ、事故を起こさないよう努力することが先決です。
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